第10話 ジャッカル殺し
「え?」
俺は思わず、間抜けな声を上げてしまった。
なんだ今の感覚は?
ちゃんと槍を握っていないのに、槍が有り得ない速度で切り変えられて、穂先が一瞬でジャッカルへ向いた。
俺は自身の手元を見下ろす。
果たして、俺の両手は親指と人差し指を緩め、残り六本の指で槍を握っていた。
「もしかして……」
死んだ仲間の死体に動揺しつつ、残る二匹のジャッカルが俺に牙を鳴らして襲い掛かる。
俺は試しに、握り方を変えずに戦ってみた。
するとどうだろう。槍が面白いように速く動く。
俺はジャッカルたちをあえて殺さず、槍でさばきながら考えた。
確かに、槍はただ振ればいいというものではない。
俺は子供の頃から、大人たちに槍の突き出し方を教わった。
腕の力だけで突かず、足や胴体の力も使って、体重を乗せて突き出さなければ、動物の分厚い筋肉は貫けない。
だから槍で突く鍛錬をしっかりと積むよう、俺らは大人たちに言われた。
「なら、突くだけじゃなくて振るうのも全身を使えば」
槍を手元だけではなく、足で、腹筋で、肩で、全身を使って槍の動きを補助する。
俺はジャッカルの爪と牙を槍で防ぎ、さばき、受け流し、二匹のジャッカルを翻弄した。
すげぇ。これすげぇ。
全身の筋肉と関節、それに槍が、ぴったりと連携する気持ち良さに、俺は震えた。
最初は、俺もジャッカルの爪に引っ掻かれ、体にはいくつもの傷を負ってしまった。けれど、ジャッカルの爪は徐々に俺から遠ざかる。
やがてジャッカルは俺に触れられなくなってしまう。
槍を振るえば振るう程、突けば突く程。俺の槍は速度と精度を増していく。
ジャッカルとの戦いが進む程、俺は強くなっていると実感できた。
できるだけこの戦いを長引かせたいという気持ちはあったが、それはすぐに終わった。
俺の成長も打ち止めというか、ジャッカルの攻撃パターンはわかると、俺の動きも単調になっていった。
ジャッカルとの戦いで可能な成長はこれまでか、と俺は一匹のジャッカルの喉を貫き、もう一匹は槍の柄頭で地面に叩き伏せてから、カカトで首を思い切り踏み砕いた。
俺の足下には、ジャッカルの死体が三匹分。
大人たちが、危険だからと逃げた相手を倒した。
気づけば、俺はまた、勝利の咆哮をあげていた。
俺の声に気づいたのか、リーダーたちはすぐに戻ってきて、ジャッカルの死体を目にして言葉を失っていた。
俺と年の近い連中は諸手を挙げて喜び、また俺を賞賛してくれた。それは一部の大人でも同じだけど、また一部の大人たちがどよめいていたのが少し気にかかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます