第8話 野望
日が沈むと、俺は毛皮の寝床で横になっていた。右隣にアオイ、その隣におばさん、おじさんという順で、ちょうど男ふたりで女ふたりを挟む形になっている。
俺はなかなか眠れなかった。
昼間の興奮が抜けないんじゃない。
我が家の食糧事情について考えているのだ。
我が家に限らず、この集落の連中は、基本的にお腹がすいている。
女たちが森で集める木の実や茸には限りがある。
男たちの狩りが上手くいって、特別大猟だったときや、大物が獲れた日はお腹いっぱいになれるが、そんな日は稀だ。
この村の人口は一五七人。
ネズミやリスじゃあ腹はいっぱいにならない。
ウサギや狸でも、三人から五人で食べればなくなってしまう。
集落のみんなが毎日お腹いっぱいご飯を食べる。それは流石に夢物語だ。
でも、この家だけなら……
食糧分配のルールを簡単に説明する。まず、集団で狩りを行った場合、獲物は集落全体で分ける。それでも、獲物をしとめた本人は、多めに肉を貰える。それは今日、俺が鹿の足を家に持ち帰ったことを見ればわかるだろう。
ただし、集団の狩りに参加せず、一人で狩りをした場合は、全ての肉がその人個人のものになる。
首を倒して、俺はアオイの寝顔を見つめた。
子供の頃からアオイだけでなく、俺らガキ組はいつもお腹をすかせて、集落のすぐ近くで食べられる草を探したりした。それでも足りないけれど、まだ狩りには行けない俺にはどうしようもなかった。
でもこれからは、俺の頑張り次第で飯の量は変えられる。
俺の働き次第で、アオイをお腹いっぱい食べさせてあげられる。
おじさんとおばさんも喜ばせられる。
より多くの肉を得るには、俺が単独で獲物を捕まえなくてはいけない。
今日の牡鹿は、みんなで狩りをしている時に獲ったものだしな。
実際、俺ひとりなら、牡鹿と牝鹿を同時に相手にしなくてはならなかったかもしれない。そうなれば、俺に勝ち目があったとは思えない。
明日もたくさん獲物が獲れたらいいな。あと、早く単独で獲物が獲れるだけ強くなりたいな。そう思いながら、俺は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます