第7話 計算能力


 俺とアオイは、木と動物の骨、毛皮で作った家に帰り、食事の続きだ。


 おばさん、アオイの母親が、俺のもちかえった鹿の足を三分の一ほど切り分け、焼いてくれた。


「今日はアギト君のおかげで、久しぶりにお腹いっぱいになったわ」


 おばさんにそう言ってもらえて、俺も嬉しい。


 アオイの両親は、親が死んだ俺を引き取ってくれた恩人だから、俺としても恩を返せた気がする。


「悪いねアギト君。私が狩りに行けないせいで」


 そう言って俺に謝るのはおじさん、アオイの父親だ。


「いいんですよ。それにおじさんだって先生として働いているし、立派ですよ」


 アオイの父親は、去年の狩りで足を怪我して以来、走れない体になってしまった。


 いまでは、集落の子供たちに数の数え方や、動植物の種類を教える先生だ。


 おじさんは教えるのが上手いので、最近では足し算と引き算ができるガキが増えている。数だって、百まで数えられるのが当たり前だ。


 それにおじさんは『暗算』といって、分ける物を前にしなくても計算できる。


 俺は、集落でも数少ない『暗算』ができるおじさんを尊敬している。


 なのに、おじさんはちょっと遠い目をした。


「う~ん、そう言ってくれると嬉しいんだけど、十歳で三桁の暗算ができたアギト君に言われると危機感を覚えるなぁ。もしかしてアギトくん、そろそろ五桁の暗算できるんじゃない?」


「いや、おじさんの域にはまだ遠いですよ。ていうか俺の暗算て時間かかるし。おじさんみたいに瞬間的に出せる人なんて他にいませんよ」


「はは、そうかな」


「だいじょうぶ、アギトならお父さんより立派になれるよ」


 アオイの空気が読めない発言で、おじさんはちょっと悲しそうな顔をした。


 でも、美味しそうに鹿肉を食べる娘の姿に、おじさんはすぐ笑顔になる。


 こんな感じで、我が家は家族全員がお腹いっぱいになるまで肉を食べて、残りは明日の朝に食べることにした。

 

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