第6話 宴
俺は、こいつよりも強い。
俺と同じ初狩り組のふたりと、一部のおとなたちが俺に殺到し、俺を褒め称えた。
今度の賞賛は、素直に喜べた。
俺は強い。俺は賞賛を浴びるだけのことをしたという自負が、俺の胸を満たしていた。
遅れて、リーダーと残りの大人が駆け寄ってくる。その手には、しっかりと仕留めた牝鹿と小鹿の死体が抱えられていた。
「運がいいのか、天才なのか、とんでもないやつだな……」
「将来のリーダー候補だな……」
リーダーたちは賞賛するというよりも、ただただ感心しているようだった。
こうして、俺の初狩りは終わりを迎えた。
夕方前。集落へ帰ると、当然ながら俺は今日の主役だった。
集落で待っていた大人だけでなく、ガキたちも『アギト兄ちゃんすげぇ』と、俺に羨望も眼差しを送ってくる。
俺もああやって、大物を仕留めて来た大人たちに憧れた時期があった。けど、もう俺は憧れられる立場のようだ。
そう思うと、なんだか感慨深いものがある。
「アギト♪」
可愛らしい声が駆け寄ってきて、振り返るとアオイが俺に跳びついてきた。
アオイは、何度も『すごい』と言いながら、俺に抱きついて離れない。
アオイはやや小柄だけど肌がやわらかくて、抱きしめているととても気持ち良い。
他の、同年代の女の子たちが、俺とアオイを見ながら囁き合っている。その一部が聞こえたが『次期リーダーのお嫁さん』という単語が飛んでいた。
いくらなんでも、それは気が早過ぎるだろう。
それから集落では、火が落ちる前に男たちで獲物を解体、それから火を起こす。女たちが肉を切り分け、自分たちが獲ってきた茸と一緒に肉を焼き始める。
狩りのあとの飯は、集落の中央でみんなで食べる。
食糧は無駄にはできない。毛皮を剥がすと、肉も内臓も脳味噌も食べ、骨を割って骨髄も吞むと、骨は道具作成に使う分を除き、石で粉状に砕いて吞みこんだ。
今日は久しぶりの牡鹿ということもあり、集落の誰もが笑顔で騒いだ。
アオイは食事のあいだ、ずっと俺の隣に座っていた。
美味しそうに鹿肉を食べるアオイは可愛くて、アオイの笑顔が見られて俺も満足だ。
飯が終わると皆で後片付けをして、俺は牡鹿の後ろ脚を、まるごと一本持って帰ることを許された。
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