第10話 この世界は……

「あれ?」


 そういえば妙だ。


 ゲームだと、テントを使って眠ると全ステータス異常とHPMPが回復する。その代わり、夜が明けるまで行動不能になる。


 プレイヤーはこのあいだ、ゲームにオンラインしたまま意識を現実世界に返す、文字通りの一時停止モードを使う。


 現実のほうで自由に過ごし、ゲーム世界で夜が明ける時間になったらまたゲームに戻る。それが普通だ。


 でもいまの俺はどうだ?


 まるで現実のように普通に寝て、しかも寝ている途中で起きる?


 有り得ない。


 ゲームだと、一度テントで寝れば、朝までは絶対に起きないはずだ。


 俺は思い出す。自分で言った、有り得ない可能性を。


 ゲームそっくりの異世界に転移してしまった。


「……いや、まさかな」


 その説を否定するように俺は被り振った。


 他のみんなはどうしているんだろう。


 気になった俺は、索敵スキルを使用。すると、手元に周辺マップが表示されて、そこにみんなの位置が味方を示す青丸マークで表示されている。


 そのとき、俺はその青丸マークに違和感を感じた。


 ……すくない?


 俺のクラスは、俺を含めて四〇人。


 パッと見の印象だけれど、それが少なく見えたのだ。


 索敵情報を確認すると『味方34』と表示されている。



 味方が三四人。俺をいれて三五人。


 五人足りない。


 どうしてだ。こんな夜に、隊が離れるなんて。


 マップの端には誰も映っていない。


 俺は、索敵範囲を最大にして探った。


 俺の最大索敵距離は五〇〇メートル。


 それでも、残りの五人は見つけられない。


 まずい。これはまずい。


 いない五人は、ちょっと離れたわけじゃない。何か目的があって、どこかへ移動したんだ。


 直観的に脳裏に浮かんだのは、柴田たち不良グループの五人だ。


 あいつらまさか!


「好美起きろ! 柴田たちがいなくなった!」

「えっ? つ、月兎?」


 好美を起こすと、俺は衝動的にテントから飛び出し叫んだ。


「みんな起きろ! 起きろ! 柴田たちはいるか!? いたら返事をしてくれ!」


 そこら中のテントから物音がして、みんなは眠そうに目をこすりながら、そして文句を言いながら這いだしてきた。


「柴田! 柴田たちはいるか!?」


 柴田、と言われて、みんなは周囲を見回す。

 返事はない。

 みんなも『そういえばいないな』というふうに目をしばたかせた。


「どうしたんだい月森君?」


 服部が姿を見せると、俺は剣幕を荒げるのも構わず声を張り上げる。


「柴田たちがいないんだ! たぶんあいつら、こっそりレベル上げにレッドエリアに行ったんだ! 助けに行って来る!」

「お、おい月森!」


 語気を強める服部を無視して、俺は走った。


 レベル九〇の俺は、ステータスの瞬発力が恐ろしく高い。


 疾風のように駆けだした俺に、レベル一の服部は追い付けない。


 俺はみんなからぐんぐん離れ、一番近くのレッドエリアにすぐ駆けこんだ。

 森の様子がガラリと変わる。


 木々の色は深く暗くなり、赤紫色の草花が咲いている。


 レッドエリアを走って、走りながら索敵スキルを使用。


 マップに味方の反応が出るのを待った。


 すると、五分も経たずに俺の五つの青丸マークがマップに映る。

 

 青丸マークの周囲には、敵を現す赤丸マークがいくつも表示されている。


 間違いなく、レッドエリアの高レベルモンスターに襲われるいることだろう。


 数秒でその正体を視界に捉える。


 案の定、柴田たちが複数のトレントに囲まれている。


 いや、柴田の子分のひとりである、内田はトレントに噛み潰されている最中だった。


 トレントは、枯木の姿をした植物型のモンスターだ。


 幹には巨大なふたつの目と口があり、内田はサメのように大きな口で咀嚼されている。HPバーは青から赤になっている。残り一割を切った証拠だ。


 そのまわりには、同じようにHPが赤くなった山本、田中、岡田が腰を抜かして悲鳴をあげている。

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