第6話 一軍たち中心の世界


「まず当然だけど、隊列の外側は男子が担当。みんなで女子を守らないとね」


 男子たちが、手もとの武器を見下ろす。


 三軍と二軍の男子に配られたのは剣や槍、斧などの近接武器だった。逆に女子たちに配られたのは魔法の杖や弓など遠距離武器だ。


「ただし、それだと上からの攻撃に対応できないから、内側にも何人か男子を配置させてもらうよ。全体を見て把握して指示を出す、コマンダー部隊の役目もするから責任は重たいけど、明智、森園、僕と一緒にやってくれるかな?」


「当たり前だろ」

「任せろよ」


 返答したのは、服部と同じ一軍の美系男子だ。

 服部は魔法の杖にも槍にもなる激レア装備を握りしめながら、


「あと、加奈たちには中央で、僕と一緒に回復役をやってもらうよ」


 加奈たち、というのは、ようするに一軍の女子たちだ。


 美人でコミュ力の高い女子グループ、そのリーダーであり服部の恋人でもあるのが北条加奈だ。その手には、魔法の杖が握られている。あと、彼女たちには回復アイテムを多めに渡している。


 服部は北条の両肩に手を置いて、真摯な眼差しで見つめる。


「加奈。わかっていると思うけれど、これは死んだら終わりのデスゲームかもしれない。加奈たちが回復をし損ねたら取り返しがつかないんだ。こんな重要な役目を押しつけるのは酷いと思う。でも、だからこそ加奈たちに任せるんだ。やってくれるよね?」


 北条加奈は一瞬、感極まったように目を大きく開いて、それから大きく頷く。


「うん、任せて。あたしらが、しっかり回復やるわ!」


 服部は男子が女子を守るようにとか、上からの攻撃に対応するためとか、責任とか重要な役目とか、耳当たりのいいことばかり口にして、理想的な隊列を作り上げた。


 結果。外側は三軍と二軍の男子。内側は三軍と二軍の女子。中央は一軍の連中という、カースト制度剥き出しの隊列が出来上がった。


 それに、回復役の責任が重たいのは事実だが、視点を変えれば、いつでも自分のHPを満タンにできる安全なポジションということだ。命綱は回復役の手にあるため、みんなは服部や北条たちを守らざるを得ない。


 服部たち一軍の機嫌を損ねれば、HPを回復してもらえないからだ。


 それでも、誰も文句を言わない。


 俺も、服部の企みに気づいているのに何も言えなかった。


 この場で、一番頼りになるのはベテランプレイヤーの俺だ。


 でも、みんなは手の平を返して俺のご機嫌とりをする、なんて安易な行動には出ない。


 こういった有事の際。危機的状況でも、クラスカーストは健在だ。


 普段は容姿、学力、体力、財力に優れた生徒がチヤホヤされるのは、仕方ないのかもしれない。でも、容姿も学力も体力も財力も関係ない、プレイヤーのレベルこそがモノを言うこの状況下でも、みんなの価値感は平時と変わらないようだ。


 なら、俺ひとりが強気に出ても無駄だろう。


 俺がここぞとばかりにリーダー気取りをすれば、きっとみんなはこぞって俺を非難する。


 だから、俺は服部の企みを非難しない。


 一軍だけが安全圏にいようとしても、俺は見て見ぬふりをするしかなった。


「じゃあ、俺はレベル九〇だから、先頭で戦うよ」


 俺が一歩前へ出ると、服部の手が俺の肩をつかんだ。


「いや、だからこそ月森君には僕と一緒に中央にいなきゃだめだ」


 ちょっと強めの口調の服部は、俺の肩を離そうとしない。


「そりゃあ月森君が戦えば僕らは楽だよ。でも、敵が弱い序盤のうちから僕らもモンスレの戦闘に慣れておかないと。レベルだって上げないといけないし。レベル一の僕らは、少しでもレベルを上げて、生存率を高めないとだろ?」


 正論を振りかざしながら、服部を俺を引き寄せる。


「それに、一番ゲームに慣れている月森君は戦うよりも、中央で全体を把握しながらみんなに指示やアドバイスを送ったほうが、全体の戦力も向上する。ソロプレイじゃなくてチームプレイなんだからさ、ね?」


 一部の隙もない理論武装。ここまで言われては、俺は首を縦に振るより他にない。


 ありていに言えば、俺は服部たち一軍のボディーガードなのだ。


 こうして服部は、レベル九〇の最強ボディーガードを労せずして手に入れたことになる。

 そして……


「もちろん、好美ちゃんも僕らと一緒に中央だよ。好美ちゃんレベルは?」

「わ、わたしは、八六だよ」

「じゃあ、月森君と一緒に頼んだよ。よしみんな行こうか。月森君は方向を指示してくれ」

「お、おう……」


 こうして、俺らは王都へと向かった。


 いつもは大好きなモンスレの世界なのに、俺の気持ちは暗く沈んでいる。


 それは、ゲーム世界に閉じ込められたからでも、もしかするとデスゲームかもしれないという恐怖があるからだけじゃないのは、明白だった。

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