第5話 クラスカースト
「じゃあまず、月森君のアイテムをみんなで分配しようか。僕らはレベル一だけど、最強装備や回復アイテムがあれば、死なずに済むだろう?」
みんなから『おぉおお♪』と喜びの歓声が上がる。
まぁ、俺も最初からそのつもりだったけど……
「じゃあ月森君、ウィンドウを開いてくれるかな? 僕にも見える設定で」
服部は、まるで十年来の友達のように俺と肩を組んでくる。
俺は頷き、服部に逆らえないまま、黙ってウィンドウを開いた。
クラスカーストの最底辺に位置する三軍も、奴隷らしくしていれば、かりそめの平和を享受できる。
対して、一軍に目をつけられ、特別な感情を抱かれている三軍未満の俺は、どれほど一軍に尽くしても虐げられる扱いは変わらない。なのに一軍のご機嫌を損ねれば即公開処刑だ。
俺に拒否権なんてない。一軍リーダーの服部が『寄こせ』と言ったなら、従うのが俺の義務なのだ。
回復アイテムをみんなにわけてから、服部の指示通り、俺は武器一覧を表示する。武器名の横に性能も表示されるように設定する。服部はわざとらしく頭を悩ませるように声をあげ、俺の所持品を物色した。
「んーと、そうだねぇ、じゃあコレとコレは明智に、あ、コレ可愛いね、性能もいいし、美香子ちゃんに似合うんじゃないかな」
服部は武器や防具のデザインと性能を確認しながら、次々どれを誰に渡すか俺に指示する。俺は服部に言われるがままに画面を操作して、レア装備の数々をクラスの連中に譲渡していく。
モンスレの装備には性別による制約がない。全てのプレイヤーが、全ての装備を自由に装備できる。
服部は俺が持っている装備のなかから、女子が着てもおかしくないものを的確にチョイスして、女子たちに配分していく。
女子たちは俺から装備を受け取るたびに『ありがとう服部くん』と言って服部に愛想を振りまいた。
最後に服部は、自分の装備品を選んだ。デザインが服部に似合っているかは別にして、とにかく武器防具としての性能が高い激レア装備。誰にも渡さずにいたそれらをちゃっかり自分のものにして、装備品の分配は終了した。
俺は、最初から俺のアイテムをみんなにわけるつもりだった。
もしもこれがゲーム中に死んだら現実でも死ぬデスゲームだったら取り返しがつかない。
みんなは俺を蔑んだり、蔑まれる俺を助けず無視してはきたけれど、流石に『死ねばいいんだ』とまでは思わない。
だから、みんなが死なないよう、俺は最初から俺のアイテムをみんなにわけるつもりだった。
でも、自分からするのと言われてするのとでは違うというか。
長年苦労して俺が集めたアイテムの数々が、当然のように垂れ流し状態にされて、感謝は俺じゃない奴が受けて……そうなると、なにも感じない、というわけにはいかない。
言葉では表現するのが難しい、釈然としない感情が胸のなかでとぐろを巻いて、いろいろとたまらなかった。
「じゃあ月森君。まずは近くの街へ行こうか。ここがどこかわかるかな?」
服部の問い、事実上の命令に、俺は首肯する。
「ああ、ここはプレイヤーが最初にゲームを開始する王都の近くにある『ベリーの森』だと思う。とりあえず、みんなで王都に行って、それから今後の方針を決める、とか?」
俺は勝手に決めず、必ず服部にお伺いを立てる。
「そうだね。じゃあみんな、これから一番近くにある王都へ行こう。その前に隊列を決めよう。実は隊列を考えてみんなに武器を分配したんだ。大切なことだから、よく聞いてね」
また俺の提案を、自分の意見であるかのように喋る服部。そんな服部を、女子を中心にみんなは羨望の眼差しで見つめる。
三軍の連中は一軍の機嫌を損ねないよう、愛想笑いを浮かべながらおとなしくしている。
「まず当然だけど、隊列の外側は男子が担当。みんなで女子を守らないとね」
男子たちが、手もとの武器を見下ろす。
三軍と二軍の男子に配られたのは剣や槍、斧などの近接武器だった。逆に女子たちに配られたのは魔法の杖や弓など遠距離武器だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます