第4話 異世界転移解説


 俺は服部だけじゃなくて、クラスのみんなに聞こえるよう、少し声のボリュームを上げた。


「ゲーム世界に閉じ込められるっていうのは、ラノベやマンガじゃあ割とメジャーな設定なんだ。二次元作品からの予想になるけど、いいかな?」


 服部は、優しい微笑を浮かべる。


「構わないよ。どうぞ」


 服部の温和な口調に、俺は頬を硬くしてから息を吸い込んだ。


「やっぱりゲームクリア。それ以外なら、ログアウトできる特別な場所を探す、事件の首謀者を倒す。あとは現実世界の方で解決してくれる場合、かな」

「それはどうして?」

「まず、重要なことは三つ。ここはどこか。どうやってここへ連れてこられたか。どうやって現実に帰るか」


 指を三本立ててから、俺は一本ずつ折っていく。


「ここがどこかって話だけど、ラノベやマンガなら、本当にゲームのなかっていうパターンと、ゲームそっくりの異世界ってパターンがある。ただ、後者は非現実的だから、あんまり考えなくてもいいと思う」


 俺は口をへの字にした。


 それこそラノベやマンガじゃあるまいし、ゲームそっくりの異世界に転移しました、なんて中二病にもほどがある。


 みんなも納得してくれたのか、反論はないようだ。


「どうやってここへ連れてこられたか、は単純に、みんな捕まっちゃったんじゃないか? 最後の記憶、みんなは覚えている? 俺は、朝教室に入ったところまで覚えているけど」


 俺の問いに、一軍が答えないのを確認してから、二軍の生徒たちが声をあげる。


 結果は夜寝て目覚めたら、家を出たら、登校中、とバラバラで、しかも細かい記憶は曖昧だった。


「自然に考えるなら、テロかな。モンスレを使って何か悪だくみをしている組織があって、平日の朝に俺らの学校を強襲。俺らを睡眠ガスで眠らせてアジトに連れて行ったあと、強制的にゲームをやらせている、とか……政府が行っている秘密裏の実験、って確立もゼロじゃないけど……」


 服部や一軍メンバーの顔いろをうかがいながら、俺はできるだけそれらしいことを説明する。


「俺らをゲーム世界に閉じ込めたのが犯罪組織なら、黙っていれば警察がなんとかしてくれると思う。でも政府の実験とか、バカらしい妄想だけど異世界転移系なら行動を起こさないとマズイかな。それにはやっぱりゲームクリア、一番強いモンスターとか、ラスボス設定にされている奴を倒すとか、もしくは特別な大規模クエストをクリアするとか……」


 どうでしょうか、と俺が視線で問い掛けると、服部は大きく頷いて立ちあがる。


「だいたいわかったよ。僕も、流石にここが異世界だなんてファンタジーなことは思わないよ。みんな聞いてくれ。僕が思うに、きっと僕らはとある犯罪組織に拉致されて、このゲームのなかに閉じ込められているんだ。外では警察のひとたちが頑張ってくれていると思うけれど、僕らもできることはするべきだ。ただジッとしているのも退屈だしさ、ここはみんなで協力して、ゲームクリアを目指そうよ?」


 服部が語りかけると、みんなは表情を明るくして歓声をあげる。


『さすが服部』『頼りになる』『最高』『頭いい』そんな声が次々聞こえる。

ただ俺の言ったことをそのまま繰り返しただけなのに、えらく受けがいい。

「ごめん服部、ちょっといいかな?」


 わざわざ断りをいれてから、俺は服部にお伺いを立てる。


 クラスの連中、特に女子が『話の腰折んないでよ』とばかりに俺を睨んでくる。

俺は怯えながらも、一番重要なことを伝える。


「ひとつ気をつけなきゃいけないのは、これがいわゆるデスゲーム系の場合だ。モンスレだと、プレイヤーはHPがゼロになって死ぬと、最後に行った神殿で復活するんだ。でも、ゲーム世界に閉じ込められた系の作品には、ゲーム世界で死ぬと現実世界の体も死ぬ、なんて怖い設定もあるんだ」


 さっきまでの威勢はどこへやら、みんなのテンションは一気に下がる。

 みんなとはうってかわって、服部は微笑を崩さない。


「もちろん、そういう可能性も考えての提案だよ。ねぇ月森君。僕はドラゴンファンタジー派だったんだけど、こういうゲームをやりこんでいる人って、アイテムいっぱい持っているよね?」

「お、おう……」


 服部の笑みが深くなる。


「じゃあまず、月森君のアイテムをみんなで分配しようか。僕らはレベル一だけど、最強装備や回復アイテムがあれば、死なずに済むだろう?」

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