第3話 クラスみんなで異世界転移
二〇分後。神妙な顔で俺の話を聞いていたクラスメイトのなかで、ひとりの男子が口火を切った。
「ふーん、なるほどね。月森君の説明をまとめると、俺らは何故か本来の姿でモンスタースレイヤーにログイン中で、しかもログアウトができない。つまり、このゲーム世界に閉じ込められているってことだよね」
「あ、ああ……ログアウト以外にも、運営への通信やメール機能も使えないんだ。ていうか、アイコン自体が消えている」
イケメンボイスで爽やかに確認してくるのは、服部だ。
長身美形でスポーツ万能成績優秀、しかも家は裕福。クラスカーストぶっちぎりナンバーワンで、自他共に認めるクラスのリーダーだ。
うちのクラスで服部に逆らうやつなんていない。
華奢で女々しい顔で勉強も運動もパッとせずコミュ障の俺とは何もかもが違う。
ありていに言えば、俺が持っていないものを全て持っている、不平等の象徴のような奴だ。当然、俺のクラスカーストは最下位だ。
クラスカースト。
二十一世紀初頭に生まれたこの言葉は、数十年立ったいまでもなお現役だ。
クラスで幅を利かせる特権階級の一軍。一軍の邪魔をしなければ市民権を与えられている二軍。そして一軍と二軍の奴隷で絶対服従の三軍。最後に、クラスにひとりしか存在しない最底辺、家畜。つまりは俺だ。
家畜である俺に、いつも通り爽やかで優しげな表情で対応しながら、服部は唸る。
「う~ん、それは困ったなぁ。まぁ、ログアウトする方法はおいおい考えるとして、他にも問題はあるよね。月森君。なんで君と心宮さんだけ立派な格好なのかな?」
服部の言う通り、俺と好美以外は、全員初期装備の質素な格好だ。
布製の短パンにノースリーブシャツ。革のサンダルにベルト。武器は人それぞれで、ショートソードの人やショートスピアの人がいれば、ハンドアックスの人もいる。
どれも、剣、槍、斧では一番弱い、初期装備の武器だ。
みんなが不満そうに、鋭い視線を俺に向けてくる。その眼光に身をすくませながら、俺は声をしぼりだす。
「きっと、俺と好美はこのゲームをやっているからだよ。俺このゲーム好きで、すごいやりこんでいるんだ。えっと、好美もそうなんだろ?」
俺が尋ねると、隣に座る好美は、小さく頷いた。
「うん。みんなはドラゴンファンタジー3のほうが好きみたいだけど、わたしはセカンドライフ要素が充実しているこっちのほうが興味あったから……」
ドラゴンファンタジーというのは、プレイヤー数一〇〇万人を越える超人気VMRだ。有名ゲームメーカーの大作で、前作と前々作のプレイヤーを引き継ぎながら新規プレイヤーも開拓するという、モンスターギガヒットを飛ばしている。
対するモンスレは、冒険だけでなく、料理やガーデニング、家畜の飼育など生活面での自由度が高いVMRだ。しかし、発売前は話題になったものの、ドラゴンファンタジーと発売月が重なるという憂き目に遭い、人気はいまひとつ。マイナーゲームの烙印を押されてしまった。
「くっそ! ドラゴンファンタジーならば拙者、レベル九〇の大賢者なのに!」
「自分もレベル九三の勇者でありましたぞ!」
「も、もれも。ひひ、姫も、残念だよね?」
オタクグループの男子三人が声を荒立てると、小柄でツインテールの女子がオーバーアクションで声をあげる。
「当然だにゃ~。も~。あたしら最強の四人パーティーだったのに、なんでこんなシケたゲームに閉じ込められるのよぉ!」
姫と呼ばれた女子が機嫌を損ねると、三人のオタクはそろって姫に同意して、姫のご機嫌をとりはじめる。
同じゲーム好きとして、一時期はあいつらと友達になれると思った俺だけど、もうそんな気はない。
あそこはゲーム好きではなく、姫の下僕が集まる姫の独裁グループだからだ。
「それで月森君。僕らはどうしたら現実世界に帰れるのかな? 心当たりはないかな?」
「えっと……」
本来、こういうのはオタクグループのほうが向いている。けれど、どうやらまだあの三人は姫のご機嫌とりに忙しいようだ。
俺は服部だけじゃなくて、クラスのみんなに聞こえるよう、少し声のボリュームを上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます