第27話 これって何の肉?


 だいぶ怒っているらしい。


 ネイアが無言のままにテーブルにつくとレオナが、


「そしてもうご存じだとは思いますが、彼女が私の姉、ネイアです。戦場では独立交戦兵として自由に戦ってもらっています」


 ネイアだけ隊に所属していないのは王族関係者だから自由を許されているか、混血だから何隊に入ればいいか解らないから、なのかな。


 ティアはネイアと仲がよくないみたいだけど、他の子はネイアの事をどう思っているんだろう?


 僕はやっぱり、ネイアを取り巻く状況が気になってしまった。


 このエデンにも差別とかあるのかな?


 ネイアを混血だからって嫌ったり、こっちの恋愛事情はまだよく解らないけど、もしも王族同士の禁断の恋みたいな扱いだったら不貞の子とかになっちゃうのかな?


 そう考えながら、僕に視線を合わせてくれないネイアを横目で見てしまう。


「では皆さん、食事にしましょう。エマ」

「はい」


 レオナに言われてエマが手を叩くと、奥の扉が開いて料理を持ったメイド達が次々食堂に入って来た。


 その多くはウサギ族、犬族、ウマ族だった。ネズミ族がいないのは、身長的にテーブルの上に配膳するのが難しいからだと思う。


 円卓の上には数えきれない程の魚料理と野菜穀物料理、そして肉料理が並んだ。


「って、肉!? エマ、これってなんの肉!?」


 つい素っ頓狂な声をあげてしまう。


 だって動物が人化している世界なのに肉だよ?


 ライオン族のレオナがウマ族のエマを食べるところなんて想像したくない。


 けどエマはさも当然とばかりに説明。


「それらは全てニワトリ、七面鳥、ダチョウの肉でございます」

「あ、鳥肉か、そうだよね、なんかごめん」


 そういえば夢の中で神様が、魚と鳥は知恵の実を食べていないから人化していないって言っていたっけ。


 良く見れば魚料理だってある。


 この世界の肉食動物は、魚と鳥を食べて生活するようだ。


 レオナ達は次々料理に手を付けて行く。


 ネイア、レオナ、ティアはフォークとナイフを持って、次々魚と肉料理を食べた。

逆にファノビアとレキシーさんはスプーンとフォークで野菜と穀物料理を食べる。


 最後に雑食のゴリラ族であるハナミは、フォークもナイフもスプーンも使ってどの料理にも口をつけていた。


「ていうか……」


 僕の目が節穴でなければ、お姫様の食事なのに焼き鳥や親子丼が出ている。肉+米の親子丼は、ハナミが食べている。


「これ、絶対に宮廷料理じゃないと思うんだけど」

「ニンゲン様、こちらを」


 日本人の僕に、エマが箸を持ってきてくれた。


「それと料理については、一〇〇年に一度ニンゲン様が召喚されるたびごとに地球の文化が入ってきますので、ニンゲン様になじみ深いモノもあるかもしれませんね」

「ああ、そういう事か」


 あれ? でも親子丼ってたぶん一〇〇年前は無いよね? 前回召喚された人が日本人でも明治時代の人だし。


 それで僕は、マンガやアニメにありがちな設定を思い出す。


 エデンと地球の時間の流れが違うか、じゃなかったら色々な時代の人をランダムに召喚しているのかな?


 でもそうなるとタイムパラドックス的なことが起こりそうな。


 僕は難しい事をぐちゃぐちゃと考えて、頭が重くなる。


「そういえばレオナ。僕って地球から異世界召喚されたわけだけど、これって帰れる系? 帰れない系?」


 今までに読んだ異世界召喚系の作品だと、たいてい最後は地球に帰ることになり、異世界の住人たちと泣きながらお別れをするものだ。


 僕もそうなら、心の準備をしておかないと。


「帰れません」

「だよねー」


 僕は当たり前のように返してから、目の前のチキンカツを食べ始めた。


 そもそも異世界に召喚なんて言う奇跡に、都合よく地球へ帰れるシステムがあるほうがおかしい。


 あれはフィクションで、主人公と異世界の人達を別れさせる為にあえて地球に戻れるイベントを作っているに過ぎない。


「それに昨日からみんなの話を聞いていたら、今までの人ってエデンに骨をうずめているみたいだし」


 いつのまにいたんだろう。僕の専属メイドの一人、ロップウサギのキャロが興奮気味に口を挟んで来た。


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