第23話 トラ少女ティアの夜這い

 それからますます甘えて来て、僕の寝巻のボタンをはずすと、胸板にキスをしながらティアは自分のおっぱいを押しつけて来た。


「うぁ、ぁ」


 僕の口から、思わず声が漏れる。顔が熱い、頭が上手く回らない。なんだか凄く、短絡的な欲望に流されちゃいそうだ。


 こんなの駄目だって思うんだけど、でもティアの体か香る匂いが心地よくって、やわらかいくちびるやおっぱいの感触に、足の力が抜けて行く。


 ティアの背中越しに見えるトラ縞の尻尾が、妖しくゆらゆらと揺れる。でも、その尻尾が僕を正気に戻してくれた。


「縞模様?」


 僕は自分がつまんでいる、ティアのトラ耳に視線を落とした。


 先端が黒い、トラの耳だ。


 確かネイアの尻尾には、少し薄いけど縞模様があって、でも耳は、キレイな金毛に覆われていた。


「ねぇティア。聞いてもいいかな?」


 ティアは声を弾ませながら顔を上げた。


「何ですかニンゲン様! ニンゲン様の質問なら、どんなイケナイ事でも答えちゃうんだから♪」

「ネイアって何族なの?」


 砂の一言で、ティアの笑顔は水のように染み込んで消えた。


「他の子の事を聞くなんて、酷くない?」


 僕はハッとして、慌てて謝る。


「ごめんティア。でも別に変な意味は、ティアよりもネイアのほうが可愛いとかそういう意味じゃ」


「なーんて、解ってるわよ」


 ネイアは溜息を漏らしながら、ころん、と僕の胸板から転がり落ちる。


 右わきに収まって、僕の腕を枕にし始める。


「ニンゲン様からしたら、確かにネイアの見た目って違和感あるわよね。いや、アタシ達だって違和感あるわよ。だってライオンの耳にトラの尻尾だもん」


 ティアから妖艶な雰囲気が抜けて、瞳の熱が冷めていくのが解る。


「認めたくないけどあいつ、血筋上はアタシやレオナの姉になるのよ」


 ティアはトラ族で、レオナはライオン族だ。僕は察した、ティアの言いたい事を。


「ネイアは、レオナのお父様とアタシのお母様の間に生まれた子供なの。ネイアは一応の母親であるアタシのお母様に育てられたわ。それでアタシは、ネイアが父親違いの姉だって知らないまま、ずっと騙されてきたわ」


 ティアの口調が、やや荒くなる。


「ずっと同じお父様の子で、姉さまだって……だから次の当主はネイアだなんて思っていた頃の自分がムカつくわ。トラ族でもないくせに……」


 ティアは小声になって、愚痴るようにして僕に頭を寄せた。


「だから本当の長女であるアタシが屋敷から追い出……この城に引っ越させたの。アタシの気も知らないで、ずっとライガーだってこと隠して」


 ティアはだんだん声が弱々しくなって、最後は僕から視線をはずすようにして、腕枕する僕の肩口に顔をうずめた。


「…………」


 複雑なんだな。


 僕は単純にそう思った。


 ティアの態度を見る限り、昼ドラや火サスみたいに黒くドロドロとし感情をネイアに対して持っているわけじゃないようだ。


 僕の目にはティアが、親の再婚相手と仲良くできない子供みたいに映った。


 失礼な話だけど、元が動物のせいか、この国の人はみんな、どこか子供っぽくて可愛い。


 そもそもなんでエデンの動物が人間になっちゃっているのか解らない。でも、頭がいいと言われるチンパンジーだって四歳児並の知能。それは四歳児並の精神年齢とも言える。


 王族や貴族でも、精神的に幼さが出てしまうのかもしれない。


 ティアとネイアのことは、なんとかしてあげたいな。


 そのためには、レオナからも話を聞かないと。


 そう思った矢先、急にティアが顔を上げた。


「あ、それとニンゲン様。伝説によると、召喚されたニンゲン様は次の日朝、必ず『なんだそりゃ!?』って叫んで起きるそうよ。でもみんな理由を伝えないらしの。明日起きたらどんな夢を見たのか教えてね」


「え? うん、わかった」

「じゃあおやすみなさい、ニンゲン様」

「おやすみ」

「おやちゅみ……すぅ、すぅ」


 モチポが寝相で転がって来た。


 右わきにティア、左わきにモチポの布陣で僕は寝た。


 『なんじゃそりゃ!?』って、どんな夢を見るんだろう…………?

 

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