第22話 ウサギ族ニーナ


「ニンゲンさまぁ……」


 甘い囁きに、僕の意識がうっすらと覚めかかる。


 かけ布団の感触が無い。


 それにこれは、明らかに女の子の声だ。


 なんで寝ている僕に女の子の声がかかるの?


 不思議に思って目を開けると、窓から差し込む月明かりに照らされた美少女が、妖しい笑みで僕にまたがっていた。


「!? ティ、ティア!?」


 細い指先が、僕の唇に軽く押し当てられる。


「しぃー。モチポが起きちゃうから、静かに。まっ、この子は一度寝たらめったなことじゃ起きないんだけどね」


「な、なんで僕の部屋に……?」


 困惑する僕に、ティアは扇情的な表情を近づけた。



「アラ、アムール公爵家の娘が未来の統一王であるニンゲン様と会うのに理由なんかいらないわよ。とか言いながら、理由はちゃーんとあるんだけどね」


 良く見ると、ティアは下着姿だった。


 白地に黒い刺繍をあしらったブラとショーツは中世風のこの世界には不釣り合いだけど、前に来たニンゲンが教えたのかもしれない。


 ネイアには負けるけど、レオナに勝るとも劣らない豊かな胸が、下着越しでも揺れる。


「ねぇ、ニンゲン様って、もしかして初めて?」


 目と鼻の先まで顔を寄せて尋ねるティア。


 僕は応えられず、現状に頭がついていけなかった。


 これって、もしかしても僕、捕食されちゃう!?


 僕の返事を聞く前に、ティアは言葉を紡ぐ。


「初めてなのね。安心して、アタシも初めてだから。ううん、エデンの若い子は、みんな初めてよ。だから、貴方がみんなを孕ませるの」


 ティアが一気に抱きついて来た。


「うぁっ……」


 豊かな胸が僕の胸板に押しつけられる。


 きもちい。素直にそう感じてしまう。


 ティアが僕に首を絡ませながら耳元であえぐ。


「あぁ、貴方、すごくいい匂いよ。ずっと憧れていたわ。伝説の種族、ニンゲン。神から最大の愛を受けた祝福された種族。アタシ達を導く天の御遣い。アタシは貴方のものになりたいの」


 かぷっと、ティアが僕の耳を甘噛みした。


「~~~~ッ」


「一緒に気持ち良くなりましょう」


 その瞬間、僕はティアから香り立つ匂いに気付いた。


 これが女の子の匂いなのか、それともエデンの動物の匂いなのか解らないけど、僕の体はこの匂いに、恥ずかしいくらい反応してしまった。


 ティアの手が、僕の寝まきにかかった。


 脱がせる気だ。


 瞬間的に悟って、僕は動いた。


「ダメだよ!」


 上半身を起こして、僕はティアを制した。


 トラのティアには表現があれだけど、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。


「こういう事は、簡単にしちゃだめだよ」


 僕は貧弱な語彙と混乱した頭で、必死に説得する。


「こういう事は、もっとお互いを知り合って、愛し合って、それで最後にやるべきだよ。こっちの恋愛観は知らないけど、僕の世界ではそうなんだよ」


 動物から人間になった彼女達がどういう恋愛観や、性的価値観を持っているか解らないけど、だからと言って、僕はこんなのはダメだと思う。


「へぇ、地球の恋愛って王族や貴族に近いのね」


 ティアは怒らず、自分の唇に指を当てて感心するような表情を見せた。


「王族や貴族?」

「ええ。知っての通り、エデンは男がほとんどいないから。ニンゲンはその生涯を通じて一人でも多くの女性と関係を持って、多くの子供を持つわ」


 確か、人間の男の人が一生の間に作れる子供の限界数が三〇万人だっけ?


「それで生まれた息子達はハーレムを形成して、一生の間に一人でも多くの女性と子供を作るわ」


 ハーレムっていうのは、本来はライオンに使う言葉だ。ライオンだけじゃなくて、これは自然界だと珍しくない夫婦体制だ。


 自然界では強い雄だけが子孫を残せる。


 雄達が戦って、最後に残った一人の雄が数頭から十数頭の雌と交尾をする。そうして、群れそのものがボスである一頭の雄とその嫁たちっていうのは普通の事だ。


 でもエデンだと、全ての種族でこのハーレム体制ができているらしい。


「でも身分が上がるほど、相手は慎重に選ぶわ。前のニンゲン様はアタシのお婆様との間に息子ができなくて娘だったから、うちはお母様がアムール家の当主なの。その時は数少ない雄トラの中から選びに選びぬいたし、お父様もお母様とその姉妹としか子作りしなかったんだから。まぁお父様はお母様姉妹みんなの夫ってわけね」


 ティアはお父さんの事が好きなんだと思う。今のティアは誇らしげに少し胸を張っている。


「でもニンゲン様? 好きな子としか子作りしないなら、つまりアタシがニンゲン様を魅了すればOKって事よね?」


 ティアは猫なで声をあげながら、かわいく指をまるめながら腕をおりたたんだ。


 そのまま、ゴロニャン、ていう感じで僕の胸板に甘えて来た。


「ちょちょ、ティア」

「ニンゲンさまぁ、好き好きぃ♪」

「いい加減にしないと怒るよ」


 僕はティアのトラ耳を強めにつまんだ。


「ぃゃん」


 ティアの口から、セクシーな声が漏れる。


 それからますます甘えて来て、僕の寝巻のボタンをはずすと、胸板にキスをしながらティアは自分のおっぱいを押しつけて来た。


「うぁ、ぁ」

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