第53話 シーカースクールの放課後
没ネタです。
それは、蕾愛との決闘の数日後に起きた。
「大和、東京観光に行くわよ!」
帰りのホームルームが終わるや否や、くだんの御雷蕾愛が意気揚々を声をかけてきた。
腰に手を当てた仁王立ちスタイルで、栗毛のワンサイドテールがぴょこんと揺れた。
いつも以上に強気な口調に、大和は一瞬、素になってまばたきをした。
「……お、おお、誘ってくれてありがとうな。でも放課後は訓練するって決めているから」
大和は、憧れの浮雲秋雨のような、最高のシーカーになるという夢がある。
そのためには、一日だって遊んでいられない、むしろ、訓練こそが大和の趣味と言ってもよかった。
「むぅっ、何よ、アタシの誘いを断る気!?」
「いや、お前の誘いだとなんなんだよ?」
蕾愛が不機嫌になる一方で、大和は冷静に溜息をついた。
けれど、大和の夢を応援してくれているはずの担任、浮雲真白が助け船を出したのは、蕾愛の方だった。
「いいではないですか大和君。今日の訓練はお休みにします。蕾愛さんと東京観光、いってらっしゃいな」
「先生までどうしたんですか?」
「他意はありません。ただ君は入学以来、一度も学園の外に出ていないでしょう。東京の街を実地で見て回るのも、市街戦や救助訓練の一環です」
「ほら、先生の許可も出たし、行くわよ」
「あ、おい」
担任からにこやか笑顔で背中を押された蕾愛は、自信たっぷりに大和の腕を引き、教室の外へと連れだした。
30分後。
大和が連れてこられたのは、東京タワーだった。
遥か向こう側には、倍近い高さを誇る東京スカイツリーがそびえている。
「へぇ、画像では何度も見たけど、生で見ると絶景だなぁ」
ドローンとスカイタクシーだらけの空にあっても、両者の威容は損なわれることなく、東京の空を鋭く突いていた。
大和がすっかり感心していると、蕾愛が得意げに胸を張った。
「この前はずいぶん頑張っていたし、ご褒美に今日はアタシが奢ってあげるわ」
「え? いいのかよ?」
「遠慮するんじゃないわよ。アタシは貧しいアンタの実家と違って実家からの仕送りたくさんもらっているんだから。あ、いや、貧しいは余計よね。ごめん」
「いや、金ないのは事実だし、謝らなくていいけど」
「と、とにかく今日はアタシに任せなさい。ほら行くわよ!」
それから、蕾愛は一日、まるで大和をエスコートするようにもてなした。彼女らしくない殊勝な態度だ。
大和は、なんとなく蕾愛の気持ちを察した。おそらく、彼女なりの罪滅ぼしなのだろう。
今まで、大和は彼女から随分な扱いをくけてきた。何かにつけては一芸馬鹿と罵られ、取り巻きたちと一緒に嘲笑してきた。
けれど、この前の一件を経て、彼女なりに思うところがあったのだろう。
一度でも悪いことをすれば一生許されないなら、人は誰も改心しないだろう。むしろ、自暴自棄になるかもしれない。
改心すれば過去の罪がチャラになるわけではない。
けれど、この場合の被害者は大和自身であり、大和は自ら反省して変わろうとしている人を責めようとは思わない。
「なぁ蕾愛。そんなに俺に気を使わなくていいぞ」
その言葉に、蕾愛はびくりと肩震わせてから硬くして、気まずそうに首を回してきた。
視線を泳がせながらも、蕾愛はこちらの顔色をチラチラとうかがってくる。
それが、まるでイタズラがバレて親からの罰を恐れる子供みたいで、いじらしくもある。
珍しく可愛い仕草をする彼女に、大和は優しく語り掛けた。
「だって俺ら、友達だろ?」
その一言で、蕾愛は目を丸くしながら、みるみる顔を赤くした。
「だ、誰が友達よ。アタシとアンタは、そんな温い関係じゃないわよ! アタシとアンタは」
一度息を呑み、意を決したように、語気を強めた。
「ライバルよ!」
その元気な宣言に、大和は思わず表情をゆるめた。
「じゃあ、【仲間】と書いて【ライバル】と読む……てのはどうだ?」
一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてから、蕾愛はニヤリと不敵に笑った。
「いいわね! それ採用よ!」
「そりゃよかった」
その時、大和が浮かべた笑みは、真白そっくりだった。
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