第37話 ネタバレ! 主人公大勝利ぃいいい!
「■■■■■■■■!」
何かを吠えながらジャックも四肢の刃を猛らせた。
しかし、秋雨は己の拳に合わせて肘を、蹴りに合わせてカカトを噴火させることで超音速の格闘術を浴びせ続けた。
ジャックが爪で斬りかかる。
先に秋雨の鉄拳がジャックの胸板を穿った。
ジャックがスネの剣で斬りかかる。
先に秋雨の廻し蹴りがジャックの腰をへし折った。
今、秋雨はジャックの能力下にある。
その運動エネルギーの多くは減退しているはずである。
にもかかわらず、秋雨はスピードでジャック・ザ・リッパーを圧倒していた。
「■■突撃ダ」
「邪魔だ!」
今まで周囲に控えていたアポリアたちが動き出すが、秋雨は手の平から爆炎を放ち、一度に四分の一を灰に変えた。
残るアポリアたちは動きを警戒するように足を止めた。
「!?」
「子分に頼るなんて情けないなぁおい!」
そして秋雨は再び加速する。
おそらくは、その人生において誰よりも速かった最速の殺人鬼を奈落の底に叩き落とす戦いは10秒、20秒と続き、だが30秒は続かなかった。
「■■」
うめき声を漏らし、ジャックは大きくバックステップして距離を取った。
このまま逃げる気だろう。
――まずいっ!
闘争と徒競走は違う。
スコットランドヤードから逃げ続けたジャックが持つ逃走能力、相手をあざむき物陰に隠れ逃れる技量は折り紙付きだろう。
秋雨が焦燥感に駆られ、ジャックの顔に笑みが浮かんだ直後、だがジャックの背は壁にぶつかった。
「■■!?」
透明なバリアの障壁に、ジャックは血まみれの顔で目を剥いた。
「忘れたのかいジャック・ザ・リッパー。ボクらは2対1だ! 秋雨!」
「はい!」
噴火のジェットで超加速した秋雨は全体重と推進力を拳に乗せながら、渾身の力と想いを込めてジャックの心臓に打ち込んだ。
拳と手首、ヒジに鈍痛と衝撃が抜ける中、秋雨はマグマ属性の初歩技を叫んだ。
「ヴォルカン・フィストォオオオオオ!」
鉄拳から爆炎と爆轟が炸裂した。
爆炎が肌を炙り、爆轟が鼓膜を震わせる紅蓮の世界で、ジャックは黒い影となりながこちらの腕をつかんできたが、何もできず粉々に砕け散った。
ジャックの手足や頭は地面に落ちると、先日のアポリア同様、黒い霧となって消えた。
指揮官の敗北に、他のアポリアたちは一斉に空間の裂け目の中に逃げ出した。
途中、秋雨に触れたジャックの右腕を回収するアポリアがいたが、腕はみるみる雲散霧消していく。
――やっぱりアポリアだ。でも、過去の人間をコピーできるってことは……。
「秋雨!」
温かい体温と心地よい重量感が背中に飛び込んできて、秋雨は思考を止めた。
「せ、先輩、いや守里ちゃん!?」
振り返ると、草壁が背中に抱き付き、キスの射程距離で満面の笑みを浮かべていた。
「伝説の殺人鬼を倒すとは大金星じゃないか! 君って奴はこのこのこのぉ!」
嬉しさと興奮を溢れさせながら体を揺すって来る。
そんなことをするものだから、彼女の豊満な胸の感触がダイレクトに伝わってきてしまう。
秋雨は、自分の中に湧き上がる不適切な感情を必死に抑え込んだ。
「ところでケガはないか?」
「はい、右腕を掴まれた時にちょっと切ったぐらいです」
すると、周囲から次々拍手が沸き起こった。
試験関係者は、高校を卒業したら是非防衛大学にと熱烈にスカウトまでしてきた。
拍手と歓声を全身に浴びながら、秋雨は今までにない充実感を味わっていた。
みんなの笑顔と賞賛が、みんなを守れたという実感をくれる。
――そっか、俺、みんなを守れたんだな。
自分の力で誰かを救う。
浮雲秋雨は14歳にして自身の生き方を知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます