第36話 ジャック・ザ・リッパーVSハイスペ陰キャ
この会場にいる誰もが気づいているのだ。
ジャックに対抗できるのは、彼女だけだと。
その中で、秋雨だけは危ういものを感じていた。
確かに草壁はジャックの能力を看破した。
けれど、決定打にはならない。
――俺も何か、先輩の助けに、でも俺に何ができる?
自分の能力はジャックに通じない。
何もできないことに秋雨は歯噛みするも、そこで彼女の言葉を思い出した。
「大事なのは努力も才能でもなく工夫すること」
――そうだ。先輩の能力だって、普通に考えたらジャックに通じない。それどころか戦うこと事態できやしないじゃないか。
なのに、草壁は工夫することでバリア能力を攻撃に転じ、ついには伝説の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーとも互角に渡り合っている。
――思考を止めるな俺! 考えろ! 考えるんだ! 自分の能力は効かないじゃない、どうやったら効くかを考えるんだ! 工夫しろ!
草壁が地面や空中に次々バリアソードを展開しながら隙を見て射撃し、それをジャックが弾き、避けながら徐々に草壁との距離を詰めていく。
彼女がジャックの射程に入る前に、なんとかしろと、秋雨は自分を叱咤した。
――先輩は運動エネルギーを奪われないよう、そもそも動いていないものを武器にした。俺の能力で動かないもの、動きを止められても平気なもの。超高熱で周囲の気温を上げる? いや、それだと他の人たちも巻き添えだし俺の魔力じゃ屋内ならともかく外の気温を灼熱にするなんて無理だ。
秋雨は焼けつくような想いで考えるも、ジャックが草壁との距離を詰める光景が焦燥を生み、焦燥が秋雨の思考を空回りさせた。
――クソッ、あいつの顔面を直接ブン殴れたらいいのに!
そこで、ジャックを音速で殴り飛ばす自分を想像して、秋雨は目が覚めるような閃きを覚えた。
ジャックがターンステップでバリアソードの壁を避け、草壁に迫った。
冷や汗が浮かぶ彼女の額に、血に濡れた刃が迫る。
刹那、秋雨の鉄拳がジャックのこめかみをブチ抜いた。
「ガ、アッッ!」
これまで無言だったジャックが苦悶の悲鳴をあげながら派手にぶっ飛んだ。
秋雨の雄姿に、草壁は目を丸くして息を呑むのも忘れている様子だった。
「秋雨……?」
「先輩に、手を出すな!」
秋雨の宣戦布告にジャックは飛び起きると高速でこちらに駆けてくる。
秋雨も、必勝を胸に正面から疾走した。
「ダメだ秋雨! その男に接近戦は効かない! 奴は全てを遅くできるんだよ!」
背後からの忠告を振り切るように、秋雨はさらに加速しながら拳を振りかぶった。
案の定、数メートル先にジャックを捉えた途端、秋雨の体は減速した。
でもそれでいい。
右ひじを引いて、拳はセットしている。
仕込みは上場。
あとは、引き金を引くだけなのだから。
ジャックが嗜虐的な表情を浮かべて、ロングソードを生やした右腕を振り上げた。
同時に、秋雨は自身の背中と右ひじから最大出力の噴火を起こした。
戦闘機のアフターバーナーもかくやというジェット噴射は秋雨の体を超加速させ、拳はさらに倍の推進力と共に弾丸加速した。
体重60キロの秋雨が持つ運動エネルギーは、8グラムの9mm拳銃の比ではない。
秋雨の鉄拳は高速でジャックの顔面を捉え、深く鼻面にめり込み頭蓋骨を打ち砕いた。
「■■■■■■■■■■■■■■!」
もはや、五十音では表現不可能な雑音を鳴らしながら、ジャックは仰け反り再び吹っ飛んだ。
右の拳に残る痺れるような鈍痛に耐えながら、秋雨は怒りを込めて声を張り上げた。
「こっちの動きを遅くするって言うならよう、それ以上に加速すりゃいいんだろうが!」
肘と足の裏から紅蓮の炎を噴射させながらホバリングで宙に浮かび、秋雨はジャックを睥睨した。
割れた顔を上げ、ジャックは驚愕の眼差しでこちらを見上げていた。
だが相手はアポリア。
秋雨は容赦なく前傾姿勢を取った。
「行くぜ」
ジャックが飛び起きる直前に背中を噴火させた。
灼熱の推進力と背後へ引き抜かれるようなGを全身に受けながら、秋雨は空間を貫きジャックとの距離を殺した。
「■■■■■■■■!」
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