第32話 勝ち組人生決定!
休み時間の度にクラスメイト達から質問攻めにあう秋雨が衝撃を受けたのは、昼休みのことだった。
「おいみんな、緊急ニュースやってるぞ」
四時間目の授業が終わるや否や、スマホを取り出した生徒の一声で、クラスメイトたちは一斉にスマホを取り出した。
こっそりとスマホを見ていた生徒の誰かが声を挙げた。
他の生徒たちも一斉にスマホを取り出すも、先生は止めなかった。
緊急ニュースの内容は、同時多発テロに使われたマネキンの正体についてだった。
秋雨が捕獲したマネキンを鑑定系能力者が鑑定した結果をまとめると、マネキンは魔術ではなかった。
連中の正体は宇宙から飛来した星間飛行生命体で、二日前の大流星群に乗って世界中に飛来したようだ。
その星でもっとも繁栄した生物の肉体を模倣し、もっとも魔力の高い生物を主食としながら生きる。
そして生物を食いつくすと別の星に飛び立つらしい
国連はこの星間飛行生命体をギリシャ語で【無理難題】を意味する単語【アポリア】と呼称。
また、各国は警察や軍隊の中から精鋭を選び抜き、アポリア対策チームを作ることを決定。
特に日本では、秋雨の事例から一般人でも攻撃系魔術の素養がある人を迎え入れるつもりであると発表された。
「浮雲お前影響力えぐいなおい!」
「対策チームって、お前もう就職先決まっているのかよ?」
矢継ぎ早に浴びせられるクラスメイトからの賛辞に、秋雨は愛想笑いを浮かべながら手を横に振った。
「いやいや、よく見ろって。俺が魔術でアポリアを倒したから、一般人からも募集するってだけで、俺が内定しているわけじゃないからな。俺はあくまできっかけ」
「でも実際アポリア倒したわけだし、この入隊試験受ければ合格確実だろ?」
男子が突き出したスマホ画面には、アポリア対策チームの入隊試験要綱が書いてある。
「今日の午後、一次試験で魔力出力測定と能力テストするってよ」
「マグマ使いの浮雲なら余裕だろ?」
「いいよなぁ、勝ち組適性は。俺なんて視力を強化するだけだぞ?」
「俺は体にものをくっつけるだけ」
「あたしは指でなぞった場所に線を引けるだけ」
「私は近くにいる生き物の場所がわかるだけ」
「わたしはカピバラっぽいことをカピバラ以上に発揮できるよ。つまり無能!」
「あたしは自分の体温を他人に分けるだけだし、使えないよねぇ……」
秋雨は一瞬、残念な気持ちになった。
――けど、日常だとこいつらの能力のほうが役に立つだろうな。
「そう言うなよ。俺の能力なんて使い勝手悪いぞ。基本煙とか噴石出るから室内じゃほぼ使えないしな」
秋雨自身は、自分の能力を無用の長物だと思っている。
炎や熱ならともかく、火山、マグマの能力なんて、平時は使い勝手が悪すぎる。
「でも今はアポリアが世界中にうじゃうじゃいるんだぞ?」
「そうそう。お前ヒーローじゃんか」
まるきり、秋雨が対策チームに入るのを前提にした口ぶりにやや辟易とした。
「俺は試験受けないぞ」
『えっ!?』
信じられないとばかりに、クラスメイト達が目を丸くした。
「あのなぁ、うちは運送屋だぞ。俺は中学卒業したらスクーターの免許取って家を手伝わないといけないし、戦うとか危ねぇだろ?」
眉間に縦ジワを刻みながら、無責任にハシャぐクラスメイト達をたしなめた。
「現実はアニメやスタント、プロレスじゃないんだ。父さんも心配するだろうし、命の危険があるような仕事、俺はごめんだね」
――母さんに続いて俺が死んだら、父さん独りだ。
秋雨の当然の返答に、だが無責任なクラスメイト達は、ノリが悪いと非難してくる。
そんなクラスメイト達を酷い連中だと秋雨が辟易すると、教室のドアが勢いよく開かれた。
「秋雨、一緒にアポリア対策チームの入隊試験を受けよう!」
生徒会長、草壁守里の登場に、秋雨を含む全員がぎょっとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます