第31話 ZEROがHEROに!
翌日。
朝のニュースは黒いマネキンの話題で持ちきりだった。
どうやら、あのマネキンは世界中の都市部に現れ、無差別に人を襲ったらしい。
世界中の監視カメラがとらえた映像が、順番に流れている。
他の地域でも倒すことには成功したものの、煙のように消えてしまったため、詳しいことはわからない。
唯一、日本で生きた個体を捕獲されたので、鑑定系魔術の使い手も動員しながら調査中らしい。
――俺が捕まえたアレかぁ。
リビングのソファで歯を磨きながら、秋雨は昨日のことを思い出す。
商店街に現れたマネキンたちは秋雨と草壁で退治して消え去った。
けれど一体だけ、秋雨のマグマウォールで捕獲した個体がいる。
いつまで経っても消えないソレを、秋雨と草壁は警察に引き渡してから、事情聴取を受けたのだ。
――誰かの魔術で召喚したものなら、術者の意思で消せるはずだよな? 術者の意思でも消えない、あるいは消さない理由でもあるのか?
気にはなるものの、自分には関係ない。
それに、政府の調査で今後明らかになるだろうと、秋雨はテレビから眼を離した。
「秋雨。父さん朝の配達に行ってくるから、戸締りよろしくな」
「おう」
秋雨の家は小さな運送屋を営んでいる。
母親は他界しているので、父一人息子一人の二人家族だ。
中学を卒業したら、スクーターの免許を取り、秋雨も家を手伝うつもりだ。
◆
「浮雲が来たぞ!」
登校した秋雨が教室に入ると、誰かの一言でクラスメイトたちの目が一斉にこちらに向いた。
ズラリと並んだ眼という眼に、秋雨はおどろきたじろいだ。
「な? なんだ?」
「おい浮雲! これどういうことだよ!?」
男子の一人が、スマホの画面を見せてきた。
それは朝、秋雨が途中で見るのをやめたニュースの続きらしかった。
そこには、秋雨が黒いマネキンたちと戦う姿がバッチリと映っているし、直後には秋雨と草薙の顔写真と名前が並んで表示された。
ちなみに、内込の写真は被害者男子として表示された。
「は? 俺こんなの聞いてないぞ。こういうのって許可いらないのか?」
肖像権と知る権利の矛盾について秋雨が考えている間に、他の生徒たちも次々スマホを手に違うニュースサイトや動画サイトを見せてくる。
世界中に現れた黒いマネキンは同時多発テロとして注目のマトであり、秋雨はそれらを退治したスーパー中学生として紹介されている。
他の国では日本の何倍もの被害を出した挙句、退治したのは警察官や軍人らしい。
どの秋雨関連の記事にも数百万のイイネや高評価がついていた。
「なぁ、この黒いマネキンてどんなだったんだ?」
一人の生徒が興味津々に尋ねてくると、他の生徒たちも矢継ぎ早に質問を投げてきた。
「マネキンて結局、誰かの使い魔系魔術なのか?」
「秋雨ってこんなすげぇ能力だったんだな? マグマとか超勝ち組じゃん!」
「なんで草壁さんと一緒にいたの? 付き合っているの?」
「連絡先交換して!」
みんなは羨ましそうに、まるでスターを前にするような興奮振りだった。
一方で、今までボッチだった秋雨はこのような扱いは慣れていない。
普通の男子なら今までにないチヤホヤぶりに浮かれて浮足立って有頂天になるのだろうが、秋雨は対応に困るばかりだった。
――こういう時って、どうすればいいんだ?
「なんで今まで自分の適性黙っていたんだよ!」
「正直ぃ、打撃力を飛ばすだけの内込よりずっとすごいよねぇ!」
――そういえば、内込は?
彼の姿を求めて視線を巡らせると、内込は独り、自分の席でつまらなさそうにこちらを睨んでいた。
煙たそうな横目と視線がかち合うと、内込はぶっきらぼうに顔を背けた。
秋雨に助けられたのが悔しいのか、秋雨が注目されているのが不満なのか、理由はわからないものの、とにかく内米は不機嫌らしい。
元から親しくはないが、これからも近寄らないほうがいいだろう。
「まぁ秋雨ぇ、教えてくれよぉ」
しつこいクラスメイトたちからの質問に、秋雨はぼそぼそと答えた。
「えーっと、マネキンはそこまでは強くなかったけど攻撃力は結構あって――」
そこまで言って思い出した。
内込の取り巻き二人を簡単に倒したマネキンの力、人間の魔力を吸い取るあれはなんだったのだろうか。
あの二人は救急車で運ばれたが、どうなったのか。
秋雨が気にしていると、背後から男性教諭の声がした。
「チャイムはなっています。みんな、席に着くように」
先生の口調に、秋雨は違和感を覚えた。
元から真面目な人ではあったが、今日はいつも以上に厳格な印象を受けた。
担任からの指示に、生徒たちは仕方なくといった感じで自分の席に戻っていく。
秋雨は嫌な予感を覚えながら席に座った。
そして、担任は教卓越しに、皆へ重苦しい声で言った。
「昨日、商店街でテロの被害に遭った●●と◆◆の死亡が確認されました。誠に残念です」
その言葉に、教室は水を打ったように静まり返り、秋雨も手にじわりと汗を握った。
――やっぱり……手遅れだったのか。
無防備に倒れ込み、頭を地面に打ち付けても無反応だった二人。
意識を失っているだけだと思いたかったが、駄目だったらしい。
二人とも、内込と一緒に秋雨を散々いじめてきた札付きの悪であり、本来なら同情の余地はない。
けれど、秋雨の胸には言いようのない気持ち悪さがとぐろを巻いて消えなかった。
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