第15話 10たす10が100にも200にもなる友達を作ること、それが人間にとって1番大切なことなんですよ
「それはもちろん、魔力を何かに変換しようとしたら自然と噴火が起こるからです」
魔術とは、魔力を別の何かに変換する精神技術のことだ。
そして、魔術には普通、適性がある。
水に適性のある人が、魔力を炎や電気に変換しようとすれば、長い訓練が必要な割に、大した成果は出ない。反面、適性のある水は、魔力を何かに変換しようとするだけで発動する。
「俺も、最初は爆発かなと思いましたけど、灰や煙の量が多いし、一緒に噴き出した石を学校の先生に調べてもらったら噴石だったんです」
だから、自分の適性は火山、山属性だと、信じて疑わなかった。
「そうですね。多くの人は魔術の特性から自分の適性を推論します。しかし、火山はマグマを含め、多くのモノを生み出します。噴火は、マグマが起こす無数の現象の1つに過ぎません。地底のマグマが地表にぴゅっと出ちゃっただけ、地球のニキビみたいなものです」
「ニキビって、言い方……じゃあ俺の適性はマグマってことですか?」
なんだか凄く強そうで、大和は少し胸が高鳴った。炎の上位互換に思える。
「それだとマグマを簡単に作れるはずです。でも君が魔術を使うと噴火が起きた。まぁ、魔術適性はゲームと違って、明確に名前を付けられるものではありませんしね。異世界転生ラノベみたいに鑑定スキルとかあれば良いのですが……とりあえず、君の適性は、ヴォルカンと呼んでおきましょう」
まともなネーミングであることに安堵すると、真白はテンションを上げ、語調を強めた。
「というわけで、大和くん、君はマグマ、それからマグマに含まれる成分、土や鉄の具現化に挑戦してください。鉄を使えれば防御にも使えますし、鉄杭を噴火力で撃ち出す砲撃も可能です。この3ヶ月で魔術センスの磨かれた君なら、できるはずですよ♪」
「はい。でも、ただの鉄のマチェットソードじゃ、高周波ブレードに負けるんじゃ」
シーカーの近接武器は、全て高周波ブレードだ。
ただの鉄鉈では、刃を合わせただけでこっちが斬られる。性能は、雲泥の差がある。
「なら熱でヒートマチェットソードにすればよいのです。そうでしょう?」
「そうか、確かにそれなら……ありがとうございます、先生!」
「なんのなんの、それが教師の役目ですから♪」
とは言いつつも、真白はちょっと得意げだ。
今まで自分が気が付かなかったことをドンドン教えてくれる。真白は先生として本当に優秀だと、大和は尊敬してしまう。
「それで、どうやったら鉄を作れるんですか?」
「それは、いや、試しに自分で試行錯誤してみてください」
「教えてくれないんですか?」
感心したそばから突き放されて、軽くショックを受ける。
「いえいえいえ、そういうわけではありません」
真白は胸の前で手を振り、否定した。
「技は教わるものではなく盗むもの、なぁんて非効率なことを言う気はありません。料理人は師匠の下で10年以上修業して一人前になれる、なんて言われます。が、実際には料理専門学校で2年勉強した生徒たちがオープンした回転寿司屋が大繁盛しています。それに、門下生が高い月謝を何年も払ってようやく教えてもらえる武の精髄なんて、1冊4000円のハウツー本に載っていますし、なんならウィキペディアにもタダで載っています」
先人たちをあざ笑うように、真白はコロコロと鈴を鳴らすように笑って小躍りした。
「でもね大和くん、それにも限度があります。考えてもわからないのと、最初から考えもしないのは別です。他人に教わることを前提にし思考を放棄すること、これを依存と呼びます」
真白は声を潜め、顔から笑みが消えた。
水色の瞳の奥には、厳しくも優しい、真剣みが見て取れた。
それはシーカースクールにいる間だけではない、大和の10年後、20年後を見据えた教育だった。真白の態度に、まるで父親のような頼もしさを感じ、大和は自然と背筋を正した。
普段はふざけているけど、この人は本物だ。
10組の担任を任されているのも、きっと何か訳があるに違いない。
そう、大和は断定した。
「それにね大和くん。学び舎にいるのは、先生だけではありません」
また、声音を優しくすると、真白の視線は他の生徒達へ向けられた。
「10たす10が100にも200にもなる友達を作ること、それがシーカー、いえ、人間にとって1番大切なことなんですよ」
そう言われて思い出すのは、中学時代を一緒に過ごした4人の顔だった。
自分の不合格を悲しみ、合格を喜んでくれた彼らは、かけがえのない存在だ。
「良き師匠に支え合う仲間と高め合うライバルがいれば、才能なんてチンケなものです。先生から教わるのも良いですが、友達と教え合うのも良いものですよ」
「はい」
大和は真剣に、短く答えた。
「そしてそこから愛が生まれて先生は嫁と、おっと、ここから先はR指定です。うふふ」
――最後まで緊張感が続かないなぁ……。
大和は口がへの字になった。
「ただ、その辺を蕾愛さんにも伝えたくて、うちで引き取ったのですが、いやはや、逃げられてしまいました」
言われてみると、彼女は子供の頃からお山の大将だった。
取り巻きはいても、対等な友達、という関係には心当たりがない。
今頃、蕾愛は1人で東京観光をしているのだろう。
「友達うんぬんは父の受け売りですが、今の先生があるのは友人たちのおかげだと思っています。経験者の言うことは大事ですよ。賢者は歴史から学び、愚者は実体験から学ぶ、です」
真白の父親、つまり大和の憧れ、浮雲秋雨のことだ。
思いがけず憧れの人の名前を出されて、大和の中で欲望が膨らんだ。
「……あの、ちなみにですけど」
「ん? どうしましたか?」
秋雨さんに会わせてください、と頼もうとして、大和はためらった。
それを言うと、なんだか真白のことを秋雨に会うための踏み台にしているようで、罪悪感があった。
それでも、15歳の初心な好奇心は、罪悪感を乗り越えるのには十分だった。
「秋雨さんに会ってお礼が言いたいんですけど……子供の頃、アポリアから助けられましたし」
おっかなびっくり尋ねるも、真白は気にした風もなく答えた。
「父にですか? うーんそうですねぇ、会わせてあげてもいいですが、ただ会わせてはつまらないですし……ではこうしましょう。推薦生が集まった1組のエースと試合をして、もしも勝てたら会わせてあげます」
「いっ!?」
思わず、声を上げてしまった。
推薦生たちは、全員が中学時代からシーカーとしての訓練を受け、幹部シーカーから推薦を受けたスーパーエリートたちで、入試を免除になった優等生たちだ。
とてもではないが、無能の落第生たる自分が勝てるような相手ではない。
魔術を1つしか使えない、というのは大和の勘違いだったが、依然、大和が運動音痴ならぬ魔術音痴なのには違いない。
――しかも、1組のエースってことは、それってつまり学年首席だよな? 朝に会ったあいつらよりも、ずっと……あれ?
朝、大和が会った5人は、魔力すらない勇雄のヒヨコパンチで悶絶し、大和のイラプションアーツで一撃KOされた。
そのことを思い出すと、途端に頭が冷えてきた。
――もしかして、推薦生たちって、ただ業界とのコネがあるだけで、必ずしも強いわけじゃないのか?
小説と現実は違う。
シーカーを題材にしたラノベに、敵役として登場するエリートキャラ達は最強の超ド級集団であることが多い。
だが、現実は親の七光りも甚だしい、甘ったれのお坊ちゃま集団なのかもしれない。
――なら、推薦組のエースって言っても、学年主席の最強様ってわけじゃないのかも。
実際、トップランカーであろう蕾愛も、幹部シーカーとのコネがないだけで非推薦生だ。
そもそも、秋雨のような最高のシーカーになって大勢の人を救うなら、強くなるのは当然のことだ。夢の為、秋雨に会う為なら、いくらでも鍛えてやる。そう意気込んで、大和は力強く拳を固めた。
「おや? 怖気づきましたか」
「まさか」
大和は頭を振って、まっすぐ、真白の顔を見上げた。
「任せてください。すぐに強くなって証明してあげますよ。先生の言う通り、才能なんて関係ないって」
大和が歯を見せて笑うと、真白はにっこり笑った。
「その意気です。大和くん、君はGOODですよ♪」
真白に褒められ、大和は嬉しくなった。
今までとは違い、魔術を教えてくれる、そして褒めてくれる先生がいる。
真白の言う通り、大事なのは才能ではなく環境だと、大和は実感した
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