第14話 才能とはつまるところ、成長速度でしかない。成長の遅い子はいても、成長しない子はいません
大和を含めた13人の生徒を前に、真白は魔術の説明を続けた。
「大事なのは魔術の使用を【無意識】のレベルに落とし込むこと。ブラインドタッチならぬ、ブラインドロゴスです」
軽快に口を動かしながら、真白は両手でキーボードを打つパントマイムを始めた。
「キーボードで文章を打つ時、最初は『何指をどこに伸ばして』と意識しますが、ブラインドタッチを覚えると、『おはよう』と打とうとするだけで指が動きます。魔術も同じ。慣れると、そうしようとするだけで使えるようになります。嘘だと思うなら、利き手ではないほうで箸を使ってみてください。使い方を知っているのに途端に動かなくなり、何指と何指をどう動かして、と意識しなければものをつかめなくなります。あ、芋の煮っころがし落ちた」
箸を使うパントマイムで、何かを落とす動きをする。いちいち芸が細かかった。一部の生徒が笑っていた。
「当然、これは魔術だけでなくあらゆる戦闘技術についても言えます。技術の【ブラインド化】、それが強くなる近道です」
――真白先生にしてはいいネーミングだな。
「先生にしてはいいネーミングですね」
――え? 望月意外と毒舌だな。つか知っているんだ。
「っ、いえ、これは嫁の命名です。先生は【お箸名人化】と名付けました」
――先生……。
勇雄が不思議そうにあごをなでた。
「ふむ、それの何がいけないのでしょうか?」
――流石はヒヨコパンチ。お前にはがっかりだよ。
だけど、真白と勇雄の間には割り込めない絆がある気がして、少し寂しかった。
「それで先生、補習ではどの要素を伸ばすんですか?」
大和の問いに、真白は気を取り直して笑顔になった。
「はい。持続力、出力、瞬発力、のような筋トレ的なことは先生がいなくても自主トレでできます。先生が付いているときは、基本的に技術面の強化をしましょう。間違ったやり方をしていたら、変なクセがつかないよう、すぐアドバイスをします。その代わり、放課後や休日は、魔術の筋トレを忘れないように。では、特訓開始です」
真白が手を叩くや否や、クラスメイト達は三々五々、グラウンドに散ると、迷わず自主練を始めた。
きっと、他の生徒も大和同様、入学前から課題を与えられていたのだろう。
――そうなると、俺はヴォルスターの飛行訓練と空中イラプションアーツかな?
速ければ、アポリアの攻撃を喰らうことはないし、打撃力も上がる。
移動テクニックは、攻守両方に役立つ万能スキルだ。
けれど、大和が振り返ると、真白が呼び止めてきた。
「大和くん、君はまず、武装の選定が先です」
「武装、ですか?」
異次元に収納していた武器を次々と取り出して、真白は地面に突き刺していく。
「高周波のダガー、サーベル、ショートソード、ロングソード、刀、長巻、十文字槍、手斧、バトルアックス、グレイブ、バルディッシュ、ハルバード、ウォーハンマー、ジャマダハル、斬馬剣、拳銃、アサルトライフル、バトルライフル、サブマシンガン、プラズマライフル、プラズマソード、学園で用意できるのは、こんなところでしょうか」
「やっぱり、武器は必要ですよね。でも、今から剣術や槍術を習って間に合うんですか?」
「目標をどこに置くかにもよりますが、難しいでしょうね。3年で剣道の達人になれたら剣道家に失礼です。しかし、始めなければずっとできないままです。今から始めれば、3年後、大和くんがこの学園を卒業する時、最低限の戦闘技術は身に付けられます」
「でも、どれが俺に合っている武器なんですか?」
「それは使ってみればおのずとわかります。人間、適性のある武器を使えば光るモノがあります。端から順に、私の前で使ってみてください」
――光るモノか……。
全部だめだったらどうしよう、という不安を振り払う。真白を信じると決めた。なら、自分は従うだけだ。大和はロングソードを手に取り、聖剣のように地面から引き抜いた。
30分後。結論から言えば、全滅だった。
大和の期待は、もろくも崩れ去る形となった。
「う~ん、まさか全部だめとは……」
真白は頭を悩ませ、大和は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
入学試験大会で思った通り、自分の無能さが原因で真白をがっかりさせてしまった。
そのことが恥ずかしくて、辛かった。
「もしかすると、蕾愛さんの大鎌みたいに、何か特殊な武器に適性があるのかもしれませんね。ハリセンとか釘バットとかホッケースティックとかピコピコハンマーとかT字カミソリとか」
「それはちょっと……」
大和はげんなりと肩を落とした。
「この中で一番マシなのは、ロングソードと斧ですか?」
「そうですね。でも、ロングソードは軽すぎて振りにくいし、斧は重心が先端に偏っていて振りにくいし。あと槍みたいに長いのは長すぎて全体に気が回らなくなります」
「ふむ、全ての中間を取ると、肉厚な剣、ということでしょうか?」
真白は探偵が推理するように、賢そうな顔で答えた。
「そうなりますけど、そもそも、鋭利に引き切るっていうのがちょっと。いつも林業で使っている鉈は、木目とか、素材の弱点に沿って叩っ斬る感じだったので」
「ナタ? チェーンソーじゃなくて?」
真白は、不思議そうにまばたきをした。大和も、不思議そうにまばたきを返した。
「? はい。チェーンソーは便利だけど危ないですから。事故で指を無くす人多いですし。だから、うちじゃ鉈がメインなんですよ。魔力で肉体強化すれば、太い木も一撃ですよ」
「ならナタで戦いましょう。マチェットソードです」
指を鳴らして真白は破顔。ニカリと白い歯を光らせた。
まさかの提案に、大和は青天の霹靂よろしく、ハタとした。
「え? あー、そうか! マチェットソード、気が付きませんでしたよ。俺にとって鉈は伐採道具で、武器って感覚無かったので。じゃあ、マチェットソード貸してください」
「ありません。なのでキミの魔術で造ってください」
「つ、造るって、どうやって? 俺は噴火するだけの山属性ですよ?」
「キミの適性は山ではありませんよ」
「へ? どういうことですか?」
「そもそも、大和くんは何を以ってして、自分が山属性だと思っているのですか?」
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12話の望月宇兎ちゃん着替えシーンは書籍版ではカラーページになっております。
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