第13話 スポーツ選手は4月生まれが多く、3月生まれは少ないという雑学を知っていますか?

 グラウンドに集まったのは、大和、勇雄、望月、七式、蜜也を含め、クラス17人中、13人だった。


 ――なんだかんだで、みんな残っているな。


 もしかして10組って落ちこぼれクラスなのでは? という推理がよぎった。


 推薦組男子の言葉の通りなら、ありうる話だった。


 でも、そんなことは関係ないと、大和は頭を振った。

 一芸馬鹿の自分を買ってくれた、浮雲真白に師事したい。仮に、1組に転属許可が出たって、断るつもりだ。それが、大和の正直な想いだった。


「いいですか皆さん。実戦で大事なのは連携です。連携しだいで10たす10が20ではなく100にも200にもなります。しかし、自分のできることを増やさなければ、大幅なパワーアップは望めません。まずは、個々の地力を上げましょう」


 グラウンドに大和たちを整列させて、真白は身振り手振りを交えながら、朗々と語った。


「そのためには、魔術とは何か、正しく理解する必要があります」


 人差し指を立てて、真白はニカリと笑った。


「【魔術(ロゴス)】は知力、体力に続く第三の身体機能。故にその特性はスポーツと同じです。魔術にも【持続力】【出力】【瞬発力】、運動神経ならぬ魔術神経、【センス】があります。長く使えば持続力が、限界出力に挑めば出力が、最大瞬発力に挑めば瞬発力が、そしてより複雑で精度の高い魔術を使おうとするほどセンスが磨かれるのです。なので皆さんは、この4つの要素を全体的に鍛えつつ、長所を伸ばしましょう」


 今の説明は、3ヶ月前、入学試験大会の後にも、言われたことだ。



 入学試験大会以降、大和は毎日、噴火のジェットブースター、通称ヴォルスターで川の上を飛びながら登校することを、真白に義務付けられた。


 逃げ遅れた女性客に扮した真白を助けようと、足でヴォルカンフィストを使ったが、ソレを常に保ち続けるのは、至難の業だった。というか、無理だと思った。


 いくら練習してもヴォルカンフィストしか使えないからこそ、大和は不合格だったのだから。


 けれど、真白は言った。


「君が1つしか魔術を使えないなんて誰が決めたんですか?」

「それは……でも、これでもかなり努力したんです。けど、何も変わらなくて……」


 小学生時代、1ヶ月の特訓で成果が無かった時の失望感は、今でも覚えている。それでも大和はシーカーの夢を諦めず、ワンパンシーカーにシフトしたのだ。


「それは違いますね。君は、魔術センスの成長グラフを知らないだけです」

「え?」


 大和がキョトンと瞬きをすると、真白は言った。


「多くの人は、魔術センスの成長を筋トレ同様、右肩上がりの斜線だと思い込んでいます」

「違うんですか?」

「はい違います。実際は階段状で、いくら練習しても横ばいで、コツをつかんだある日、ガツンと突然上手くなります。先生はこれを【ガツンと成長理論】と呼んでいます」

「その呼び方はやめたほうがいいと思います」

「うちの嫁みたいなことを言わないでくださいよ、もう」


 真白は笑顔で唇をとがらせた。


「奥さんにも言われているんですね……」


 真白の妻で、秋雨の義理の娘さんは、どんな人だろうと、ちょっと想像した。


「最初のガツンを早くに体感した子は成功体験から魔術センスの練習を続け、テクニカルファイターとして羽ばたきます。一方で、最初のガツンが遅い子は、自分には才能がないのだと勘違いしてすぐに諦めてしまいます」


 君のようにね、と付け加えられて、大和は少し恥ずかしくなった。


 ――でもそうか、俺、才能がないわけじゃなかったのか。


「似た話はスポーツにもあります。スポーツ選手は4月生まれが多く、3月生まれは少ないという雑学を知っていますか?」

「そうなんですか?」


「ええ。4月生まれの子は早くに生まれている分、体が成長しているので、体育の授業で成功体験が多く、スポーツに関心を持ちます。一方で遅くに生まれた子は、事実上1つ年上の子供に交じって運動をしているので成功体験を得られず、自分は運動音痴なのだと勘違いして、自身の可能性を閉ざしてしまうのです。君も同じです」


「じゃあ俺、他の魔術、覚えることができるんですか?」

「もちろん。才能とはつまるところ、成長速度でしかない。成長の遅い子はいても、成長しない子はいません。大和くん、君の中にはまだまだ大きな力が眠っているのですよ」

「はい!」


 嬉しさと勇気が湧いて、大和は感動で大きく頷いた。


 真白の言葉は、ただの根性理論や綺麗ごとじゃない。そんな誰でも言えるようなハッタリ同然の言葉を吐いたなら、大和のやる気は完膚なきまでに打ち砕かれただろう。


 けれど、真白の言葉は歴然たる事実と論理に基づいている【正論】なので、強制的に納得してしまう。


 その日以降、大和は毎日、中学校の横を流れている川の上をヴォルスターで飛びながら登下校を繰り返した。


 落ちればずぶ濡れなので、集中力は否応なく高まった。

 落ちて濡れたら、それはそれで全身から発熱して水を蒸発させて、高速乾燥させた。


 こうして、大和は【爆発】だけでなく【噴射】と【熱】の操作も習得していった。

その成果が、勇雄の前で見せた、イラプションアーツだ。


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 本編では触れていませんが、練習しても上達しない、成長が停滞している時期のことを専門用語で【 プラトー】と呼びます。

 成功者はプラトーでもめげずに練習して次の成長時期まで待てる人。

 非成功者はプラトーに耐えられず、これが自分の限界なのだと諦めてしまう人。

 という説があります。


『成功とは意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである』

                         byウィンストン・チャーチル

『1000度の失敗じゃない。1000のステップを経て電球を発明した』

                         byトーマス・エジソン

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