第15話 じご
あの後、俺はどうなったのだろうか。
俺はラグニアという、咲薇を今まで蝕んでいた毒素を倒した後、魔力切れでもしたのか、土壇場で編み出した炎の翼が消えてしまいそのまま空から落下して…そこから気絶したのか全く記憶が無い。
果たしてそのまま頭を打って死んでしまったのか、奇跡的に生きているのかもわからない。
今、俺はどこにいるのかわからない。天国か地獄か…もしくは夢の中か。
暗闇をフワフワと浮いている、そんな状態だった。生と死の狭間、とでも言われたら納得するだろう。
「…起きて」
暗闇の中、突如そんな声が聞こえてきた。
どこか聞き覚えのある女の声だったが、少なくとも咲薇の声では無かった。しかし年齢は近そうだ。
「…起きて、シン」
「…!」
…思い出した、この声は。
◇
「…ん、んぅう…」
俺は唸り声を上げながら、ゆっくりと目を開ける。時刻は昼頃なのか辺りが眩しい。
ようやく光に慣れて目を開くと、そこは見覚えのある天井だった。
「…シン!目が覚めたのか!?」
「おにーちゃんっ!?起きたの!?」
聞き覚えのある男女二人の声が聞こえてきて、俺は目線を声の方向に向けると、そこには驚きと喜びが混じった表情をして俺を見つめるマスターと、顔を涙で濡らした咲薇の姿があった。
「…俺は…生きてんのか」
「おにーちゃんっ!!」
俺が目を覚まし、起き上がった事を理解したのか、咲薇は俺に飛び付いて抱きしめようとした…が、目が見えない為、俺の上半身ではなく布団に覆われた俺の下半身に飛び込んできた。
「んぶっ!おにーちゃん、どこ!?どこにいるのっ!?」
「咲薇…」
「ん…すんすん、おにーちゃんの匂いがするぞーっ…そこかーっ!」
そう言って俺の場所を把握すると、改めて咲薇は俺に飛び付くように抱きついてきた。
俺は我が子のように胸に飛び込んできた咲薇の頭を優しく撫でると「えへへー」と嬉しそうな声を出した。
「…本当はね、ちょっと怖かったの」
「何が?」
「…もう、おにーちゃんは起きないんじゃないかって」
先程まで明るく振る舞っていた咲薇は、今にも泣きそうな弱々しい声で俺にそう言った。
俺としては一瞬でも、咲薇にとっては俺が目を覚ますまでの時間は途方もなく思えたのだろう。
「大丈夫だよ、俺はこうして目を覚ました。それに言っただろ、俺はこの異世界でいっちばん強いって」
「…でも…もう、戦ってほしくない」
「咲薇…」
「おにーちゃんは、私の唯一の大切な人だから…もう…居なくならないで…」
咲薇は俺にそう告げると、強く、強く抱きしめた。俺が目覚めるまでの途方もない時間は、咲薇の不安を更に煽っていたのだろう。
…大切な人が自分を守る為に命懸けで戦い、帰ってきたと思ったら重傷を負って長い時間目を覚まさずに寝たきり。
俺だったらきっと“自分のせいだ”と自分自身を責めるだろう。だがそれはきっと、咲薇も同じなのだろう。
…やっぱり、咲薇の目が見えなくてよかった。もし見えていたら、全身火傷だらけでボロボロの姿を見せてしまう事になっていただろうから。
「…ごめんな、咲薇」
「おにーちゃんは、優しすぎるよ…」
「そんな事無いよ」
「あるよ…だって、私は目が見えないからきっとおにーちゃんに面倒かけてると思うし、今回だって…私のせいでこんな事になったのに…なのに、どうして怒らないの…?」
「怒るも何も、妹が困ってたら助ける。妹が危なかったら守る。それは兄として当たり前だろ」
「…私、そんな優しいおにーちゃんに甘えちゃう自分が嫌だよ…お願いだから一回くらい怒ってよ…!」
咲薇は泣きながら、縋るようにそんな事を俺に頼み込んだ。
しかし、怒れる訳がないのだ。
咲薇は俺のせいでずっと酷い目に遭わされているのだ。
まず生まれた時から目が見えなくて、ラグニアを寄生され、それによる発情によって性処理や洗脳をされたり、何日も何も食べられない日々が続いたり、一人にさせてしまう事が多かったり。
これだけ酷い目に遭っているのに、それの原因である俺が怒る筋合いは無いのだ。寧ろ、怒られるべきは俺だとすら思ってしまう。
…だが怒るべき内容なら、一つだけある。
「じゃあ咲薇…俺、怒るよ」
「うん」
「…そんな辛い顔しないでくれ!」
「…え?」
「俺は咲薇の笑顔を守りたくて戦ったのに、そんな顔されちゃ体張った意味が無くなるだろ。それに咲薇は笑ってる方が俺は好きだし、甘えられるのも嬉しいから、だから笑ってくれ!」
「…本当に…おにーちゃんは優しすぎだよ」
俺が怒ると咲薇は呆れたように笑った。
「…よく出来ました」
俺の求めていた笑顔とは違うけれど、それでも咲薇の笑顔という事には変わりないので、俺は咲薇の頭を優しく撫でた。
「もぉ…ばかぁ…」
咲薇はそう呟くと、そのまま眠ってしまった。おそらく、不安から解放されて緊張が解れたのだろう。
「…お前の妹さん、寝ずにお前の側に居たんだ」
「そうだったのか…ありがとう、咲薇」
マスター曰く、咲薇は俺が倒れている間、目が見えないにも関わらずずっと側に居てくれていたらしい。
俺の胸の中で眠る咲薇に、俺は感謝を伝える。が、当の本人は眠ってしまっている為、その感謝が届くことはないのだが。
「…マスターがここまで運んできてくれたのか?」
「あぁそうだ。空中で幻の炎の鳥が飛んでるって周りが騒いでたから何事かと思って外に出てみたら、お前がバケモノと戦ってたんだよ」
「…え?じゃあまさか俺のあの戦い、みんなに見られてたのか!?」
「もちろん。少なくとも俺とルクスリア、その辺にいた闇市の住人にはな」
「そうだったのかよ…」
俺はあの戦いが闇市の住人に見られていた事を知り、恥ずかしさのあまりマスターから目を逸らす。
あんな厨二病発言しながら戦ってる様なんて見られたら明日どんなイジリをされるんだろうか。いや、俺が戦っていた場所から闇市まで割と距離があるし、ましてや声なんて聞こえていないか。
「そんで、お前がバケモノを倒した後流れ星の如く落ちていったもんで、俺が急いで駆けつけたって訳よ」
「…やめてくれよ、恥ずかしくなってきた」
「だがお前、炎の翼なんて魔術どこで覚えたんだ?あんなの見た事無いぞ」
「あれはその場のノリで出来たようなもんだ。それにあの炎の翼は
「はぁ!?あれが
マスターは立ち上がり、目を丸くして大袈裟にそう言った。その後に咲薇が眠っている事を思い出したのか、気まずそうな顔をして椅子に座り込んだ。
「…とにかく、お前には聞きたい事が山ほどある。妹さんを寝かせて、場所を変えよう」
「わかった」
耳打ちするようにマスターがそんな要求をする。俺はそれを了解し、咲薇をベッドに寝かせた後、マスターと共に階段を降りてリビングのソファに座った。
「…さてシン、お前には聞きたい事が山ほどある」
「何だ、あの炎の翼ならさっきも…」
「それもまぁまぁ気になるが…それ以前にお前が戦ってたあのバケモノは何なんだ?まさか野生の魔獣とか言わないだろうな」
「あれはラグニアって奴で、咲薇の中にあった解毒できない毒素の正体だ」
「あれが妹さんを蝕んでた毒素だと!?」
マスターは立ち上がり、目を丸くして大袈裟にそう言った。その後の空気が気まずかったのか、申し訳なさそうな顔をしてゆっくりと椅子に座り込んだ。
「…俺達はずっと、咲薇に発情させる毒素という特殊な魔術が施されていると思っていたが、どうやら違ったみたいだ」
「うむ…って事は、そのラグニアって奴を妹さんに仕込んだのはお前の元父親って事になるんだろ?」
「あぁ…そうなる」
「だとしたらお前の元父親、お前が思ってるよりもヤバい奴かもしれないぞ」
マスターは深刻そうな顔をしてそう言う。
いくら自分と血が繋がってないとはいえ、仮にも自分の娘である咲薇にラグニアを仕込んで手を出すような奴…というのが俺が思ってる奴への印象だ。それよりもヤバいというのか。
「…どういう事だ?」
「お前の元父親、“禁書”に手を出してるかもしれない」
「…禁書?なんだそれ」
俺はマスターに前世でのアニメや小説ぐらいでしか聞いた事のないような“禁書”という単語に対して問う。
「禁書ってのは、太古の昔から存在する人の手に余る程凶大な力を宿した本だ。普段は王宮で厳重に保管されているらしいが…最近何者かに3冊も盗まれたらしい」
「3冊も!?…って言われてもな。そもそも全部で何冊あるんだよ」
「今んとこ7冊だ」
そんな危ない本が、どうして7冊も存在しているんだろうか。
人というのは不思議なもので、平和の為の創造は出来なければ、技術の進歩も遅いくせに、破壊の為の創造なら一瞬で出来るどころか、そこからの進歩もとても早いのだ。
しかも人間は害悪にも、破壊の為の創造を“正義の為だ”と、あたかもそれが正しいかのように理由をつける。
だからこの禁書という奴も、人間達の
「…“今んとこ”って?」
「もしかしたら見つかってないだけで、まだどっかに眠ってる可能性があるからな」
「…何でそんなものが存在してるんだろうな」
「それもまだわかっていない…だが、禁書には凶大な力を持った悪魔が封印されているって噂だ」
「じゃあ俺初陣で悪魔ぶっ倒したって事か」
「そういう事になる…禁書の力は悪魔と同等…言ってしまえば、一種の契約のような物だ。故に力を使いすぎると、その代償としてその身を滅ぼすらしい」
さりげない俺の自慢を何気なく流し、“らしい”という何とも決め手に欠けるマスターの言葉は100%は正解だとは思えないにしろ、禁書の力は使ったらロクな事が無いというのはよくわかった。
それにマスターの言葉から察するに、この現代において禁書に関しては謎が多く、未だ解明されていない事も多いのだろう。
逆に、闇の世界を生きるマスターがそんな情報を知っているだけでも凄いと捉えるべきか。
いや、この闇市には様々な人間がいる。
権力を持つ程の身分だったが、ちっぽけな不正がバレて堕ちた者も居れば、人々から英雄だと讃えられたが、その後仲間に裏切られたり騙されたりして人生のドン底に突き落とされた者などもいる。
当然、その中には表社会の裏事情を知る人物もいるだろう。恐らくマスターはそう言った者達から情報を耳に入れているんだろう。
「だからもしあのままラグニアを妹さんの中に留めさせていたら」
「いや、咲薇は確かにラグニアによって発情させられてはいたが、別に力を使った訳じゃ」
「そこがお前の元父親の卑しい所だ」
「…はぁ、そういう事か。本当に…血が繋がってないとはいえ、アイツは自分の娘をなんだと思ってんだ…!」
俺は察してため息を吐いた後、テーブルを殴りつけて怒りを露わにする。探れば探るほど、奴がロクでもない人間だと思い知らされる。ましてやその人物が俺達の正真正銘、父親なのだから尚更腹が立つ。
奴の卑しいところ…それは、自身ではなく、咲薇にラグニアを寄生させたという点だ。
契約を結ぶと、凶大な力を得られる代償に使いすぎるとその身を滅ぼす。しかしラグニアはただ咲薇を発情させていただけだ言っていた。もしそれが力を使う事なのだとすれば、咲薇も自身が知らないうちに力に魅入られていき、後に身を滅ぼす…。
咲薇の事を好ましく思っていなかった奴からすれば、ラグニアと咲薇を契約させれば性的欲求を解消できて、好ましくもなければ自分の娘ではない、ただの邪魔な存在である咲薇を自分の手を下さず自然消滅させられるのだから、それはそれは最高だろうな。
「…中々に最低な野郎だ、お前の元父親にとって不倫ってのは禁書に手を出すほどの事だったのかね」
不倫…共に歩むと誓った者に簡単に裏切られて、その裏切った女と不倫相手との娘を引き取って養うなんて、確かに奴からすれば屈辱だろう。
「だが、どんな理由があっても絶対に許される事じゃない…ましてやその矛先が咲薇に向くのは理不尽過ぎる」
「それはそうだ。例え不倫相手の血が流れているとしても、妹さんに罪は無い」
「…俺は、奴に会ってくる」
そう言うと、俺は椅子から立ち上がって玄関まで移動する。俺の突然の宣言に驚いたのか、マスターは俺の肩を掴んで引き止めてきた。
「まさか…殺すとか言うんじゃないだろうな」
「…奴は禁書を盗んだんだろ。だったら奪い返して王宮に返却するんだ」
「いいや、お前はついでに殺すだろ」
「別に死んでも構わないだろ、あんなどうしようもない奴」
「くっ…」
先ほどの発言から、奴がどうしようもない人間だとわかっているのかマスターは何も言い返してこなかった。
何かしら言い返して俺を行かせないようにしたいが言葉が出てこないのかマスターは俺の肩を掴んだままうーん、と唸り声をあげながらも定期的に俺の方に視線を向けてくる。
「大丈夫、本当に殺しはしない。死んでもいいとは言ったが、殺すのは良くないからな」
「…本当に殺してくるなよ」
念を押してくるマスターに無言で頷き、肩の手を払うと、俺は玄関の扉を開けて奴の元へ…俺達がかつて住んでいた家へ向かう。
だが、1週間も歩いてこの街へやって来たのだ、流石にまた1週間かけてあそこへ戻るのは骨が折れる。仮に家に戻ったとしても奴が居ないのなら意味が無い。
俺は森の中を少し歩いて、森を抜けて闇市に出向く。
「周りに人は居ないな…よし、
辺りに人が居ないことを確認すると、俺は空を飛んで一気に家まで行こうとして
「あっちぃいいいい!!!あっつ!!あちぃ!?」
俺はあまりの熱さに背中の炎の翼をすぐに消し止めた。
そういえば、あの時はハティから譲り受けた黒い剣によって掛けられたバフのお陰で難なく使いこなせていたのを忘れていた。
というか普通に黒い剣を休憩所兼我が家に忘れて来てしまった。俺は手を前に向けて黒い剣を引き寄せるイメージをするが、あの時のように剣が手元に来る事は無かった。
「…はぁ。仕方ねぇ、歩いて行くか」
俺はため息を吐き、闇市から歩いて向かう事にした。
「あ!シンー!」
背後から俺を呼ぶ声が聞こえ、振り返ってみるとそこには女の子の姿をしたルクスリアが手を振ってこちらに走ってきていた。
「ルクスリアか」
「シン、どこにいくの?」
「ちょっと遠い所に」
「拙もいっしょにいくー!」
「本当に遠いぞ?歩いて1週間くらいだぞ?」
「うん!だいじょーぶ!シンといっしょならへーきだよ!」
「いや…でもルクスリアにはマスターの店の仕事が」
そう言って、何とかついて来させないように言い回していると、突然ルクスリアが上を見て一歩二歩下がった。
何事かと思って空を見上げようとしたその直後、あの黒い剣が俺の目の前に飛んできて、地面に突き刺さった。
「うわっ!?今更!?でもまぁ家からここまで割と距離あるからな…」
「…これでとんでいけるね!」
「ああ、そうだな…って、何でそんな事知ってんだよ?」
俺は剣を引き抜き、この剣が有れば
マスターと一緒に俺がラグニアと戦っているところを見ていたのは知っているが、あの光景で“剣のお陰であの炎の翼が使えるんだ!”とはどんなに察しが良い人間でもわからないはずだ。
そんなルクスリアに警戒しなくてもいいんじゃないか…そう思いもしたが、あのハティが警戒するほどだ。ルクスリアは固有技能を持っている人狼…油断は出来ない。
「だってあのあかい光は拙がやったんだよ?シンを守ってくれるようにーって」
「何…?」
俺が軽く衝撃を受けている中、ルクスリアは俺の持つ黒い剣に向けて手をかざす。
すると、まるでルクスリアの言った事は真実だと言わんばかりに、黒い剣はあの時と同じ紅い光を纏った。
「ほらねっ」
「ルクスリア…お前は何者なんだ…?」
「ん、だから何もわからないよ…。でもね、シンを守るためなら、何でもできる気がしちゃうんだーっ…ただ、それだけだよ?」
ルクスリアは、俺の問いに対しての返答をあやふやにする。だが最後の一言だけは、俺に妹がいる事を知ったあの時のような低い声で言った。
しかし自分の事がわからないのは出会った当初に言っていたし…でももしかしたらそれすらも嘘なのかもしれない。
だが、そんな色々と怪しく思えるルクスリアがこの剣にバフを施してくれて、俺を間接的に助けてくれたのは紛れもない事実…。
隠している事はあっても、俺を守るという思いは本物という事なのだろうか?
「まぁ、ルクスリアのお陰で俺は咲…いや、妹を救う事が出来た。ありがとう」
「…本当に、いもうとを大切に思ってるんだね、シン」
「あぁ、当たり前だろ」
「…次は、シン自身の為に使ってね」
「お、おう…?」
ルクスリアは不機嫌そうに言った。
俺自身に使っても何も、俺は最初から“咲薇を救う”という自分の目的の為に使っているつもりなのだが…。
というか、ルクスリアはあまり咲薇の事を好いていないのか、咲薇の話をする度に露骨に機嫌を悪くするような表情をする。
…ハティが“妹にはルクスリアを近づけるな”と言っていたように、ルクスリアの前ではあまり咲薇の事を口にしない方が良さそうだ。
「ねぇねぇシン!拙もおそらをとんでみたいなーっ?」
途端、ルクスリアは子供らしい明るく元気な声色に戻し、腕に抱きついて俺の顔を見上げてきた。
先程までのやり取りが無ければ、ルクスリアは無邪気な幼女でしか無かったのに…今となっては何もかもがわざとらしく見えてしまう。
「…てか本当についてくるのか?」
「うん!拙、シンといっしょにいたい!」
「言っておくけど、遊びに行くんじゃないんだからな」
「もーっ!そんなのわかってるよーっ!でも…シンが居ないの、寂しいから」
ルクスリアは明るい表情から一転、悲しそうな顔でそう言った。
俺がバイトから帰る時、ルクスリアはいつも明るく振る舞い、手を振って見送ってくれるが、もしかしたら内心は寂しいのかもしれない。
こうして意地でも俺についていこうとするのは本人が言うように寂しいからなのか、もしくは…。
「…わかったよ。でも危ない事はするなよ」
「それはシンのほうじゃない?」
「そうだな…それは俺が一番気をつけなきゃいけないやつだな…よいしょっ」
俺はそう言うと、ルクスリアの身体を片腕で持ち上げて抱える。本当は背中に乗せてやりたいが、そうするとルクスリアが丸焦げになってしまうから仕方なく抱える事に。
「わくわく…!」
「…
持っている黒い剣から魔力が流れ込み、自身にバフが掛けられるのを感じると、俺は
上昇する速度はルクスリアを抱えていてもなお速く、一瞬で闇市と王都を見渡せる高度まで達する。本来この高度は寒すぎて居ても立っても居られないが、炎の翼がストーブの役割も果たしている為、意外と平気だ。
「わー!とんでるー!」
「熱くないかルクスリア?」
「ぜんぜんだいじょーぶ!」
「よし…じゃあしっかり掴まってろよ!」
そう言うと俺は、元々住んでいた…俺のかつての家がある街へ飛んでいった。
いくらまだ少年とはいえ、1週間歩いた距離は凄まじく、空を飛んでいても時間が掛かる。
ルクスリアには、もう少し空の旅を楽しんでもらう必要があるようだ。
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