小説賞の発表を待つ強豪文芸部員たちのコント

六野みさお

第1話 部活見学

⭐︎主な登場人物紹介

直木奈緒なおきなお……今川いまがわ高校の一年生。文芸部に入りたい。

書読書乃かくよむかくの……今川高校文芸部部長。三年生。

豊後活人ぶんこかつじ……今川高校文芸部副部長。三年生。

初点員しょてんかず……文芸部顧問。

売路本うれろもと……編集者。


⭐︎


直木(以下直)「あのー、文芸部って、ここですか?」


書読(以下書)「さあ、そろそろだぞ、豊後!」


豊後(以下豊)「おい、まさかお前、俺に勝てると思ってないだろうな? そんなの百年早いぞ」


直「へやっ? えーと、先輩方、何をされているんですか? サッカーの実況でも見てるんですか?」


書「まさか。私たちは『全国高校生文学賞』の結果発表を見ているのよ。私は絶対に豊後には勝ちたいんだけど、豊後はそんなのはありえないって言うのよ。ねえ新入生ちゃん、絶対に私が優勝しそうだと思わない?」


直「はあ。まあ、先輩がそう言うなら、そうかもしれませんね」


豊「おいおい、書読の戯言に騙されるな。これは書読が落選したときのために自己防衛する伏線だよ。どう考えても書読が落選なのはわかっている話だ」


書「なんですって!?」


書読のスマホの中の文学賞の発表係(以下係)「はーい、では今から、第27回高校生文学賞の、上位10作品を発表します。まず、10位、高村幹太たかむらかんたさん……」


書「あれぇ、おかしいな。ここに豊後がいないなんて。これは落選ね」


豊「いや、それはこっちの台詞なんだが」


係「……、7位、中木浩なかぎひろしさん……」


書「むむ、まだ豊後が現れないわね。これはやっぱり落選ね」


豊「違う! 俺は1位なんだ!」


書「はいはい、もういいから」


係「2位、」


豊「俺来るなっ!」


係「書読書乃さん」


書・豊「はほっ!?」


豊「高くね?」


書「やった! 準優勝! まあ、私がこんなに上ということは、豊後は落選が確定ね」


豊「だから俺は優勝だっつーの」


係「では1位、豊後活人さん」


豊「ほらみろ!」


書「な、何ですって……」


豊「ふはは、思い知ったか! やっぱり俺の方が上だということだな!」


書「いや、そんなの認めないわ! たまたまよ、たまたま!」


豊「はいはい、実力ですからね。とりあえず俺の前にひざまずきなさい」


書「な、なんでそんな屈辱的なことを……」


豊「ほら、『参りました、チャンピオン』とか言えよ」


書「誰が言うか!」


豊「あれ? そこにいるのは……?」


書「見てなかったの? 新入生よ。やっぱり勝ったから嬉しすぎて周りが見えなくなってるわね」


豊「いや、そんなわけが……。ところで新入生ちゃん、名前は?」


直「直木奈緒です」


豊「ん?」


書「どうしたの?」


豊「いや、こいつ、8位にいたような……」


直「えっ!? 本当ですか?」


豊「本当だぞ。ほら、ここのサイトに載ってる」


直「わあ! やったぁ!」


豊「おいおい、何を有頂天になってるんだ? 8位だなんて、そこの雑魚の4倍の数だぞ。レベルが違うな」


書「しょうがないわよ。まだ一年なんだから」


豊「そうかなあ? 俺は一年のときは4位だったけど……」


初点(以下初)「おい、お前ら!」


書「あら先生。どうしました?」


初「さっき発表を見たぞ! ワンツーフィニッシュじゃないか! すげぇぞ、快挙だ!」


豊「えーっ、そんなに喜ぶことですか? だってこれ、高校生文学賞ですよ。高校生しか参加できないんですよ。超低難易度じゃありませんか」


初「はあ? お前ら全国の文学高校生たちをなめてるだろ。お前の今の発言は、甲子園で優勝した球児が侍ジャパンと対戦したいと言ってるようなものだぞ」


書「いや、つまり私たちは謙虚になっているだけなんですよ。ほら、先月行われた、一般も参加できる文学賞では、私も豊後も最優秀を逃したじゃありませんか」


初「とか言いながら、お前らちゃんと5人の優秀賞には入っただろうが。全く、自分たちが大リーグに行けるくらいの実力があることをいい加減理解しろ」


豊「とっくの昔にしてますよ。それより先生、昨日の大リーグを見ましたか? 大谷がすごいホームランを打ってましたね」


書「はあ、豊後はなんで大リーグを見てる暇があるのに、私より小説がうまいのだろう。嫉妬しかないわ」


豊「やった! 書読が俺より小説が下手だと認めたぞ!」


書「あっ……」


豊「……あ、電話だ。はい、もしもし、豊後ですが」


売路(以下売)「あのー、そちらは豊後先生でしょうか? 全国高校生文学賞、優勝おめでとうございます。ついては、明日の座談会のことについてご案内したいのですが……」


豊「うん、あれのことだね。わかってるよ、すぐに向かう。ああ、それから、書読と直木には僕が伝えとくから、そっちへの連絡はいらないからね」


売「了解です」


直「えっ、座談会というのは?」


書「ええっ、新入生ちゃん、そんなのも知らずに応募したの? 全国高校生文学賞で10位以内に入った人は、東京で座談会、というか自作品の講評会に参加できるのよ。まあ、全国のトップ小説家と話せるわけだし、新入生ちゃんも参加する価値があると思うわよ」


豊「うーん、それはどうかな。だって1位と2位はここにいるからね。他はみんな俺たちより下なわけだから。あと書読、新入生ちゃんの名前は奈緒ちゃんだぞ。まだ名前を覚えてないのか。記憶力が悪いなあ」


書「そんなことどうだっていいわよ。それより、奈緒ちゃんには自分より上で私たちより下が5人もいるということを忘れちゃいけないわ」


豊「あ、そうか、こいつは雑魚なんだった」


初「だからお前らは基準が高すぎるんだっつーの。ドラフト1位と2位が8位をいじめてるのと同じだぞ」


書「ところで先生はなんでそんなに野球の例えしかしないんですか。場の文学性が単調になりますからやめてください」


初「まさかお前らは、頭の中で今の全場面が文学に変換されていたのか!?」


書・豊「あたりまえです」


直「ひえぇ……」


豊「とにかく先生、今から東京まで僕たちを車で送ってくれますか?」


初「いや、今日はちょっと残業が……」


書「はあ? 先生は私たちの専属編集者だということを忘れたんですか? 先生に拒否権はありませんよ」


初「なんか主従関係が逆転してないか?」


豊「まあそれはそれとして、行くぞ、書読、奈緒ちゃん」


直「いや、今日はアニメの最終回が……」


書「だから拒否権はないんだって」


初「こいつもかなり染まってきたな……」

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