第3章 残られた者の思い

第1話 セントヘレナ奪還作戦

『出航シークエンス確認、イオン化特殊装備確認…オールグリーン、iFF確認…オールグリーン、予備電源確認…オールグリーン、出航番号556323司令塔より出航許可…オールクリア、エンジンスタート…オールセット』


 ゴウンと言うゲームのコントローラーのような振動と共に、俺たちの乗る船のエンジンが動き出す。

 続いて後ろで控えるジィの「何時いつでも出撃できます」という一言に、俺は指揮官席を立った。

 1つ下の段で船の出航をオペレートしている機関員達Ai型サイボーグの目線が、一斉に優に向く。

 それは準デュークである沙耶香や結衣達にも変わりはない。

 みな揃って両手を後ろで組み、体と視線を優へと向けた。


「これからまた、新しい戦いに入る」


 優の声は今まさに作業をしている者にもしていない者にも、等しくそして平等に、船のスピーカーを通して行き渡る。


「いつも通り俺は、皆が生き残れるとは思っていない。中にはこれが最後の戦いになる者も居るだろう」


「…」


 始まりは、いつもこんなものだ。

 しかし────何度も聞いている物だとしても、結衣の拳には力がもる。

 スピーカーからの音声なのに、驚くほど透き通る様に響く優の声。

 それはただ単にスピーカーの性能が良いからなのか、それとも…。


「故に俺は、へと言葉を送る」


 優は不意にふっと息を吐いて、表情をほぐした。

 それを見て何故か、結衣以外の準デューク達は微笑む。


「…もし天国に行ったら、ある1人の女性にこう伝えて欲しい────」


 沙耶香達の代わりに、結衣は頭の上に?マークを掲げる。

 しかしその疑問が解決するのは、その後一瞬の事だった。

 優は行間1行分、深く深呼吸すると。


「‪”‬妹の支えになってくれてありがとう‪”‬…と」


「っ…!」


 その瞬間、結衣の膝から力が抜ける。

 目から大粒の涙が零れて、口からは熱い吐息が漏れる。


「妹と時を共にしてくれて、ありがとう。不甲斐ない兄の代わりに側にいてくれて、ありがとうと…そう伝えてくれ」


「…」


「まぁ覚えてたらで良いんだ…頼むよ」


「…はっ!」


 時間差で、この船のそこらじゅうからそんな返事が聞こえてきた。

 俺はそんなこんなで、やけに揃った返事に「ははは」と笑っていると。


「ふんっ!殿の挨拶はながいの〜」


 ドゴッ


「痛ったぁぁぁ?!?!」


 沙耶香の蹴った…と言うより踏み潰したシードの足が、船の地面と一緒にめり込む。


「優様、このクソジジイの事は気にしないでください」


 そう言って「ささ、続きをどうぞ」と手をフリフリしてくる沙耶香に、「いや〜さすがに恥ずいわ」と笑っていると、ふとリルが。


「ボスぅ〜もういいから早く行こ?まだ移動の時間もあるからさ、ね?」


「むぅ…リルまでそんなことを」


「そうだな。んじゃ、仕事をするとしますか」


 ぶぅ垂れる沙耶香には申し訳ないが、リルの言うことにも一理ある。

 という訳で、俺は前へと向き直り、手を前にバッと出して。


「これより我らは第二次セントヘレナ奪還作戦を開始する。目的はセントヘレナ島の奪還及びその制圧だ」


 思わくば、セントヘレナ島に取り残されているデューク…メイカの死体を取り戻したいが────流石にそれは傲慢か。


「慈悲は必要ない。こちらも仲間デュークを1人失っている。敵を1人残らず踏み殺せ」


俺はそう言い放つと、ニヤリと口角を歪めて瞳に赤い光を灯す。

 それに動じて優の部下4人も、赤く輝く光を瞳に灯した。


「それじゃあ…出撃だ!」


 2月15日────後に‪”‬血のバレンタイン‪”‬と言われる戦いが今、始まる。





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