第2話 桃花


 燃え盛る炎。

 横たわる死体の数々。

 手には血肉のこびりついた剣が握られ、頬には先程受けた切り傷から鮮血が滴る。

 その中で今、互いの間合いギリギリから睨み合う者が2人…。


「…君は誰かな」


 段差1つ分の上から目線で、着物姿の男は口元を裾で隠して問う。


「…ァ…ハァ……ハァ………ハア…」


 俺は呼吸する度に血の風味のついた空気を吐き出す自分の肺に、唇を噛んで痛みと嗚咽を噛み殺す。

 そして1呼吸、深く息を吐いてからこう呟────否、こう言った。


「俺は…デュークだ!」



 ────「セトヘレナ島は2つの火山からなっています。1つは今なおも活動を続けるG1と、この数十年活動が確認されていないG2です。G2に関しては問題は無いですが、G1の火口付近は特殊合金も溶かす硫黄ガスの嵐となっています」


 言って桃花の部下は、立体にされたホログラムのセントヘレナ島を回転させる。

 現在、今回の作戦のリーダーである桃花の船にて作戦会議をしている所だ。

 長方形のホログラムテーブルを囲んで、俺とエレン、それに桃花は腕を組んだ。


「活火山にサイボーグも溶かす猛毒ガスか」


 桃花の部下の報告に最初に声を上げたのは、エレンだ。


「なんともガッツのある島だな、ここは」


「お前は良いだろ、バカは死なないって言うし」


「おうおうやんのかてめぇ」


「他に情報はあるか?」


 まるで昭和の半グレの様な優のからかいを綺麗に無視して桃花は、自分の部下にご自慢────なのかは知らないが、とにかく大人の色気を纏う声色でそう問う。

 と、桃花の部下はキュと視線を伏せると。


「すみません…情報はここまでです。何しろセントヘレナ島は昔から敵の基地だったので本部にも情報が少なく…申し訳ございません」


「いや、良いんだ。よくやったな、あとは任せて休んでくれ」


 流石と言うべきか、当然というべきか。

 桃花の部下に対する愛情と信頼はデューク随一だった。


 桃花の部下はサイボーグではなくほぼ人間だから…そう言う事も影響しているのかも知れないな。


 そう、桃花の部下は生身の人間が多かった。

 というのもデュークなんてものが出来る前からずっと軍人として働いていた桃花は…桃花本人は共生型のサイボーグへとなったものの、軍人時代の忠誠からかそのまま桃花の部下へとなる者が多かったのだ。

 いや…そうか、先程は桃花の部下が人間だから部下に対しての愛情が深いのだと思っていたが、違った。

 これは元々の桃花の性格なんだ。


「さて…情報が少ないのも問題だけど、やっぱ1番の難敵は────」


「あぁ、死ノサリエルだな」


 ‪”‬サリエル‪”‬────それは、2つの火山G1とG2の谷間に居座る超加速ビーム砲の事だ。


 曰く、サリエルに壊せぬ者無し

 曰く、破壊と死を司る物それがサリエル也


 …と、まぁこんな2つ名っぽい物が着くほど我々が苦い汁を吸わされている代物の1つだ。


「あれの火力も厄介だが、真に厄介なのは2つの火山の狭間にある事だ。あれの射線を避けようと横から攻めればG1とG2────その2つの山に阻まれ、ヤケになってサリエルを突っ切ろうとすればビームによって木っ端微塵だ」


 そう言って桃花は、頭が痛い事だなとでも言いたげにため息をこぼした。

 しかしこの島の厄介な所はもうひとつある。

 それは────


「しかも…島の後ろには船を拒む‪”‬浅瀬‪”‬がある。あれじゃ援護には行けねーわなぁ」


 俺の思想を予想したかの様なエレンの一言に、またもや桃花は深くため息をこぼした。

 正面を塞ぐビームに、横を固める火山。

 後ろには大型船の行けない浅瀬が広がる鉄壁の要塞島。


「これは…」


…‬思ったよりも骨が折れるな‪

俺は顎に手を置いてそんなことを思っていると、桃花が。


「まぁ良い…作戦については改めて私の方から伝える。各自船に戻って作戦行動まで待機だ」


『了解』

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