最終話 月夜には、不思議な力があったり無かったり
「いい映画だったね、お兄ちゃん」
「確かに。特に人間の頸動脈を的確に切り裂くところは見所だよな。上手く刃ずれもせずに切れてた」
「…お兄ちゃん、それはもはや職業病だよ」
「ん?」
よく分からない事を言われて俺は、そう言いながら首を傾げるも、結衣は話題を切り替える様にしてじゃあ行こっかとまた俺の手をとった。
2つの手が交互に重なる。
…たまに、思う。
この手を本来握っていたのは────握るべきなのは、誰だったのだろうかと。
もしもあの時俺が、結衣を別任務に出していなかったら。
そもそも俺が、結衣をサイボーグになんかしなかったら。
隣で微笑むこいつのあんな顔を、見なくて済んだのだろうか。
俺の頭の中に、数週間前の結衣の顔がフラッシュバックする。
降りしきる雨。
漂う血と泥の匂い。
片腕をもがれた、親友の遺体。
結衣のあんな顔を見たのは、初めてだった。
「…ぉ…お兄ちゃん」
「お、おう」
「大丈夫?」
結衣は心配そうに、まるでリルの様な上目遣いで俺を見る。
心配している顔だ。
「あぁ、大丈夫だ」
俺は力なくそう返事して、結衣の頭を撫でた。
結衣は顔をうっすら赤く染めるも、子供扱いが嫌だったのかすぐ様それを振り払う様に歩き出す。
俺はふっと笑って。
「どうやら引きづっているのは俺の方だったみたいだな…」
「?なんか言った?」
「いんや別に。そろそろ帰るか」
「ううん、もうひとつ。行きたい所があるの」
「?」
────「綺麗でしょ」
「…うん」
俺は虚ろな視線をそれに向けてそう答える。
目前には、数え切れないほど浮かぶ満点の星が、果てしない暗黒に注ぐ一筋の光の様に輝いていた。
「たまに海が凪の時、よくこうして夜空を見るんだ」
そう言って、地面に寝転んでつぶやく結衣。
その横顔は星の微光に照らされた為か艶めかしく光っているように思えた。
「星なんて好きだったか?」
「好きじゃなきゃ見ちゃいけないの?」
「別にそうじゃねぇけど」
少し強気な発言に、俺はすぐ様フォローを入れる。
「ふふっ、冗談だよ」
と、またもや俺は結衣にしてやられる。
なんだよ。真面目に答えたのに。
俺はブーたれて、思いっきりのしかめっ面で横────手が触れるが触れないかの距離に寝そべる結衣の方を向く。
「!…」
すると次の瞬間、月明かりに照られ光り輝く結衣の瞳と目が合った。
息が詰まる。
これが苦しみなのか、なんなのかは分からない。
ただ1つ分かっているのは、俺の目線が結衣に奪われて離れないという事だけだった。
「単に、他に見るものが無いだけだよ」
「え?」
「船の上は暇でしょ?」
「あ、あぁ…そうだな」
今日の結衣はなんというか…少し
少しわがままで、子供っぽい。
それもそうだ、実際まだ子供と言っても差し支えない年齢なのだ。
でも…なんでだろうな。
今の結衣は、なんだがちょっぴり大人っぽかった。
「お兄ちゃん」
と、視線を満点の星空に戻した2人は会話を続ける。
「私、戦うよ」
「?」
何と?とは聞かない。
ただ先程とは違う真面目なトーンに、俺は耳を傾ける。
「弱い自分の心とも、お兄ちゃんの道を
静かに、しかし強く、結衣は願うように続ける。
「絶対に負けない。もう泣かないし逃げない。だから────」
だから
「もしも全てが終わって、この世が平和になったらその時は────」
気がつくと結衣は、俺の顔を見つめていた。
「また一緒に、この夜空を見よう」
つんと、手が触れる。
ドキドキなんてしない……なんて、思ってみたりして。
そんな訳はない。
あるはずない。
だって────いつだって俺の心は、結衣に惚れているのだから。
あとがき
いや〜やっと2章まで終わりましたね。
長かったー!!
というのも途中テスト期間を挟んでしまって、思うように執筆ができず…すみません。
物語的にはいい方向に進んでいて、ちゃんと途中の事から最終回の事まで自分の頭には浮かんでいます。
「ちなみにこの後の戦いで結構動かすつもりです。」
完結がいつになるか分からないけど、それまでどうか、読んでいただけたら嬉しいです。
最後に一言。リルは任務外では優の事を優様と呼びます。
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