第18話 地上事情


 ここは、この街で最も大きいショッピングモール。

 食料品から衣類、医薬品まで6階に別れた広大な敷地に幅広く売られており、生活必需品のほぼ全てが集う場所だ。

 買い物カートは電磁石によって中を浮き、エレベーターは最新のAIによって操作されたエアリフトによって快適に起動している。

 そんな広大であり最先端でもある店内の一角から今、どよめきが生まれていた。


(おぉ…!)


(なんだあの美人?なんかの撮影か…?)


(めっちゃ可愛い…)


(お前声かけろよ)

(バカ良く見ろ、男連れだ)


(というか男の方もよく見たらイケメンじゃね?)


 そのどよめきの中心にいるのは、もちろん結衣と優の2人だ。

 先導する結衣の数メートル後を続く優。

 2人とすれ違う人々は9割9分足を止め、その視線を2人の美貌に奪われた。

 しかし等の本人達はそんな事は知る訳もなく…


 「…なんか騒がしいな」


 俺は何やら集まる視線に、ポケットに手を突っ込んだままそうつぶやく。

 何か知らんが、通りすがる人達はみんなこっちを向いて何やらヒソヒソと話をしているのだ。

 デリカシーが無いなと思うが、何かおかしい所でもあるのだろうか?

 ずっと海の上で暮らしていたから最近の地上事情ちじょうじじょうは知らないのだが。


 相変わらずと言うべきかそういう所は鈍感な優は、ふと足を止めた結衣に気づかず─


「おっと…なんか気になる所でもあったか?結衣」


 ぶつかりそうになる体に急ブレーキをかけて、結衣に聞く。

 と同時、丁度横にあった店の方を見て────ギョッとしたのと、これもまたほぼ同時だった。

 横にいる結衣の、「ここ」という言葉を聞いたのは。


「え」


 俺の口からは思わず端的な言葉が出る。

 わかってる。

 俺からデートに誘ったのだ。

 何も言えないのは分かってる。

 だからせめて、だと祈るのみ────が、しかし。

 現実は常に思い通りには行かない物である事は、戦場にいる俺が1番分かっている事だった。


「ここ」


「まじかよ…」


「ダメ?」


「いや全然。なんなら俺ちゃんが選んでやるぞ?」


「それはいい」


 ────あ、はい。


 普通に断られてちょっとショックを受けたのは内緒だが、とにかく、俺は結衣の後に続き「女性用下着専門店」へと入ったのだった。


 ────「ゆゆゆゆゆゆ優様がっ優様がっっ?!じょ、じょじょ女性用女性用下着店に…!!??!!」


「落ち着くのだ沙耶香よ」


「あ、ああの優様にまさか趣味が────」


「落ち着け。深呼吸だ。思考が明後日あさっての方向にいっておるぞ」


 言って柱の裏から飛び出ようとする沙耶香を、4人で必死に抑える。

しかし彼らは気がついていなかった。

この騒動が原因で、結衣と優を見失っていた事に。


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