第14話 実家

 ゴゴゴゴ…


 ガゴン


心臓に響く重低音と共に、船体がコの字型の戦艦用のピットにはまった。

 それを確認した技術員が、搭乗員用の梯子はしごを船にかける。

 今は丁度、朝日が登り出す時間。

 当たりは暗闇から明るみへと徐々に解き放たれており、朝露の滴る草木に命を吹き込んでいた。

 俺は船の甲板に出ると、ぐぅぅと伸びをする。

 すると隣りのリルも真似て、ぐうう!とオーバーに声に出して伸びをした。


「…ふぅ」


 久しぶりに見る平和な光景。

 この平和がいかに尊い物なのか、戦いに身を置く俺たちならば身に染みて分かる。


「ま、だからなんだって話だけどっ」


 俺はそう言って語尾を跳ね、くるりと後ろを振り向いた。と、既に横一列に並ぶ4人の影が。

 俺はそれに向かって話しかける。


「お前らとも一旦お別れだな。また1ヶ月後だ」


「はい。優さ────」


「ボス抱っこ〜」


 狙ってか偶然かは分からないが、完璧なタイミングで優に飛びつくリル。

 その様子に‪”‬おいロリぶっ飛ばしますよ‪”‬とでも言いたげに唇を噛む沙耶香。

 しかしここは大人の対応。

 沙耶香はフゥと肺に大きく空気を送り込むと。


「優様わ────」


「ぬっはっはっ!リルはいつまでもお子ちゃまだのぅ!まぁ最近胸の方はより育って────」


 ザボーン


「優様。我々に気を使わず、休暇をお楽しみ下さい」


「おう、ありがとな」


 沙耶香の本気アッパーで海まで吹き飛ばされたシードを無視して、俺は少し照れくさく沙耶香に感謝の言葉を述べた。

 こうも真っ向から言われるとなんか照れくさいな。

 俺がそんな事を思いながら首の後ろをかいていると、不意に後ろで待機していたジィが1歩前に出て。


「ほっほ、沙耶香の言う通り。たまには我らの事は心配なさらず、ご自分のお体をお労り下さい。ジィめが見る限り、相当無理をなされておりまするぞ」


 コクと、ジィの隣りで同意を評するアレス。

 俺はそれに「そうか?」と答えながらも。


「まぁ分かったよ、しばらくはぐぅたらして過ごすさ。でもお前らもちゃんと休めよ?」


「お望みとあらば」


「もちろん!」


「コク…」


「ほっ」


 まぁとりあえずは、久しぶりの休暇を楽しめそうだ。

 俺は一安心…とは行かないのが、またデュークと言う称号を手にした代償なのかもしれない。

 …思ったよりデュークってブラックなのか?

 まだ結衣を買い物を連れて行かないと行けないなんて。

 そう、まだ俺には結衣を慰めると言う重要な任務があるのだ。


 ちなみに今結衣は、‪”‬先に帰る…‪”‬と言って早々に船を降りていった。


 まぁ誘ったのは俺だが、今更ながらに緊張している今日この頃。

 せっかくの兄弟デートなんだから楽しめよと思うかも知れないが────いや、楽しいと思える様にするんだ。

 俺が。

 絶対に。

 不安なんて許されない。

 誘ったのは俺なんだ。

 それになりより、俺はあいつの兄なのだから。

 考えれば考えるほど手汗の滲む手で手すりを掴み────次の瞬間、フワッと甲板を飛び降りた。


────


「ただいまー」


 築100年。

 所々に穴が空く木造建築。

 目の前にそびえるそんな廃────元いに、俺と結衣は住んでいた。

 ガチャっと扉を開けるとそこには、俺の一回り小さい靴が1つ。










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