第13話 帰り道(ちょっと番外編)

「ふわぁぁ…眠」


 目前に映る3Dモニュメントの絶妙な光が、眠気を誘う。

 俺は虚ろな目を擦りながら、時間の経過と共に重くなる瞼を顔全体の筋肉を使って持ち上げた。

 現在、戦艦俺の船一基でアトラスから近くの港へと夜の海を航行している所であった。

 1ヶ月間の休暇という事で、俺と船の乗組員は皆、それぞれ陸にある自分の家に上がるのだ。

 帰る家が無いものはアトラスに泊まるか仲間の家に泊まるかだが、結衣はその後者。

 戸籍を妹にもした為、現在結衣とは同居中という事になる。


 ま、任務でいつも────と言うか今もこの船に一緒にいるからあんま実感は無いけどな。


 俺はそんな事を思いながら、口元に手を当てて再度あくびをした。


 ────ほわぁ…


「ほっほ、御就寝ごしゅうしんなさってもよろしいのですぞ」


 その様子を見かねてか、ジォは俺の横に立ちながら柔らかい笑みを浮かべてそう言う。

 俺は「ん…」と答えながら。


「いやいや…俺より年上の…ジィが起きてんのに俺が寝れる訳…ないでしょ…」


 起きている時よりか大分呼吸のタイミングがズレた俺の声。

 まるで頭は動いていないその言葉に、ジィはほっほと再度笑って。


「それはありがたい事ですな。ですがリル様を初め部下の方々はぐっすりですぞ」


 そう言って、首を横に向けるジィ。

 俺も釣られて横を見ると、腹を出して床に寝そべるシードとそれを枕にしてスヤスヤと吐息を立てるリルが居た。

 シードはグガァァァと、まるで怪獣の腹からなる様な音を奏で、それに負けじとリルもシードの腹を占領していた。

 いつもの事だが、この2人の寝相には癒される。

 いや、正確に言えばリルの寝相にだが。

 俺はそんな事を思いながら、肩ひじを着いてふっと笑う。


「…沙耶香とアレスは?」


「アレス様はデッキにおられます。夜空が観たいと」


「はは、あいつはが好きだからな」


 何度かアレスと一緒に夜の月を見た事があるが、あいつ月を見ている時は本当に、幸せそうな目をしているのだ。

 また一緒に見たいな…そんな事を思っていると、ジィは不自然な沈黙と微笑みを置いて。


「沙耶香様は…そこに」


 視線を上から横にずらし聞く俺に、ジィはふと指を俺の足元ら辺にした。

 俺はそれに従い顔を向けると────


「!ははっ、寝る時はベットで寝ろよな」


 俺とした事が。

 ウトウトしていて気が付かなかったらしい。

 全く…デュークとして失格だな。

柔らかい頬をイスの肘置きに伏せる沙耶香は、んんっ…と喉を鳴らして寝返りを打つ。

その度に僅かに角度のズレる髪の毛が電子版の光を反射し、なんだか艶かしい光沢を発している。


 サラ…


「優様がウトウトしてらっしゃる時も、沙耶香様は睡魔と戦っておられましたよ」


「マジか。つーかなんで俺の椅子なんだよ…まったく」


「ほっほ!それは難題ですなぁ」


「なんだよ…意味深に大声出して」


「いやはや、それはご自身で確かめた方がよろしいかと」


「あぁ?…全く。部下ジィはなんでも教えてくれるんじゃ無かったのかよ」


俺は自暴自棄気味にジィに皮肉をぶつけて、しかしそれでもジィに教える気は全くないらしい。


…はぁ。


俺はジィにわざと聞こえる様にため息をつく。

 沙耶香がわざわざ俺の椅子の所で寝てる理由なんて、一体なんだのだろうか?

 ただ単にそこが寝やすかったからじゃないのか?

 俺にはそれしか浮かばないのだが…。

 いや待てよ、この硬い椅子が寝心地が言い訳無いか…じゃあその……────そんな事を考え始めた数分後、それに羊を数える効果でもあったのか、俺は自分でも気が付かない間に眠りについた。


 ────「おや…眠られましたか」


 目の前には肘を手おきに置いて、スヤスヤと寝る優の姿が。

 ジィは用意してあった布団を、沙耶香と半分こして優にかける。


「ほっほ…何とも微笑ましい光景ですなぁ」


カシャ


 この時、2人の寝姿が1枚の写真に取られていた事を…沙耶香は愚か優でさえ、知る由もなかった。


「願わくば、少年少女達が戦いの業火で焼かれること無き世界を祈って」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る