第11話 新たな戦いの兆し

 ザァァァァ…


 潮の匂いと打ち付ける波の音が、嗅覚と聴覚を癒す。

 俺は今、アトラスの屋上にいた。

 屋上と言ってもドームの上に手すりの囲いがあるだけの場所で、もちろん下は透け透けだ。

 そんな神秘的な場所で、目前に続く海に向かってつぶやく奴が一人。


「いや〜驚いたよな〜」


 両肘を手すりにおいてエレンは、遠くを見つめながらそう言った。

 ‪”‬驚いた‪”‬それはもちろん、あのオリビアの演説についてだ。

 普段ほ冷静で常にマニュアル通りの動きをしているとしか見えていなかったオリビアが、まさかあんな事を思っていたとは…失礼だが、結構意外だった。


「そうだな。まぁでも、ありがたいよ。ほんと」


「…確かに」


 しんみりと言った俺に、エレンは1ターン置いてそう答えた。

 デュークという物は、いつも孤独で、愛情もなくて…あるのは忠誠だけで。

 そんな、ある意味誰からもで愛されていない存在だと思っていた。

 でも、違った。

 ちゃんと俺達の事を見てくれて────心配してくれている人が居た。

 人数なんて関係ない。

 例えそれがオリビア一人だけだとしても、やはり嬉しかった。

 俺とエレンは健やかに、久しぶりに無言の時間を楽しむ。


 サアァァ…


 前髪を撫でるそよ風が心地いい。

 俺は届きそうで届かない地平線を眺めていると…ふと、エレンから声を発した。


「で、どうするよ」


「んんー?なーにが?」


「けっ、分かってるんくせに」


 まぁ、何が聞きたいかは分かっている。

 だがしかし、少し、もう少し、この海を見ていたかっただけだ。


 ────だからそんな怒るなよ。


 俺はぶーたれる様に顎を手すりに置くエレンに視線でそう答えて、後ろでクロスしていた足の位置を反転させた。

 ‪エレンが言っているのは、この休暇を終えたらやってくる任務についての事だろう。

 あの後会議で、デュークのメイカの倒れたセントヘレナ島への再出兵が決まったのだ。

 しかも今回は、デューク3人でいどむと言う規格外の戦力きぼである。

 

「あの任務1つにデューク3人とは…こりゃ相当警戒してるな、は」


 と、俺の頭の中を読んだようにそうつぶやくエレン。


「そ、そんな…こいつと同じ意見だなんて…っ!」


「ハハハ、それはどう言う意味の動揺かな?」


 ニッコニコの笑顔で突っ込むエレンに俺が「ふっ、それはお前が1番分かってるんじゃないか?」と、いつしか言った言葉で帰す。

 オリビアの言った事は嘘では無かろうが、の連中ももうデュークを失いたくは無いと言うのも事実なんだろう。

 ちなみに今回出陣するデュークは、俺とエレン…それに、


「で、作戦は?」


「リーダーは桃花ももかだ。俺の口から言う事はねぇよ」


「それもそうか」


「ま、帰ったらウチの参謀アレスにでも聞いてみるさ」


 俺は「んんっ」と背伸びをしながらそう続ける。

 ドラーク──龍(敬愛)を祀るデューク…桃花。

 2人いる内の一人────女性のデュークで、歳は知らないが…俺より年上なのは確実だ。

 桃花はその年上キャラを満遍まんべんなく活かした色気を常に放っており、その美貌と胸元に目を奪われる者も多い。

 …なぜか見とれていると沙耶香からの視線が気になる人物の一人だ。






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