第5話 退却

 男の背中が剣先並に小さくなったのを確認してから…俺はその後本部へと戻った。


 ────「状況は?」


 「お帰りなさいませ」と迎える彩華に、ただいまの代わりにそう尋ねる。


「いつでも退却できます」


 彩華は手を前で静かに組んで、なんの焦りもない声でそう答えた。

 俺はそれに「そうか」と一言。

 指揮官席の前に立って。


「じゃあ駆逐艦をしんがりにして後ろから順次…撤退だ」


 優の号令の元、残った結衣の船はゴゴゴゴゴと言う鈍い音を奏でながら反転する。

 そして先頭を優の乗る指艦にして…順次来た道を戻るようにして発進した。


 ────後に‪”‬エスタスの回戦‪”‬と呼ばれるこの戦いは、大都市侵攻以来初めてデューク直属の部下が負けた戦いとして歴史に刻まれる事となる。

 しかしまだ誰も、知るよしも無かった…この出来事が、これから起きる‪”‬悲劇‪”‬の始まりでしか無かった事を────



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