第24話


 今にも泣きそうな、先生の声。

 ああ。

 好きな人と思いが通じ合うのはこんなにも嬉しいことなんて。

 「先生」と思い切り抱き着こうとしたが、先生はなぜかひょい、とかわして一歩分距離を取った。

「え?」

「いけません」

 そう絞り出すように震えた声で言い、握っていた私の手を離した。

 先生の今までの甘ったるい雰囲気が一変したように感じた。

「え? な、なんで?」

 てっきり10年越しの恋が叶って両想いのハッピーエンドだと思っていたので私は困惑する。

「10年前の夏、ぼくはてっきり、君とは3つしか年が違わないと思っていたので、いつか絶対にぼくのお嫁さんにするんだと決めていましたが、真実が分かってしまった今、そういうわけにもいかないでしょう」

「はい?」

 なんだかさらりとすごいことを言われた気がする。

「この間、白瀬さんがぼくに告白してくれたときにも言いましたよね。ぼくと君は、教師と生徒という関係で、年だって10も離れています」

「私のこと、やっぱり好きじゃないんですね……。覚悟してたことなので、その、気をつかわなくていいですから」

「だから、そんなことあるわけないでしょう! 今でも大好きですよ!」

「じゃあ」

「だめです」

「あおいのばか!」

「っ、だから!」

 ぐい、と腕を強く引かれたかと思うと、先生の胸に抱きすくめられていた。

「えっ、ちょ、意味わかんない!」

「怖く、ありませんか」

「え?」

 頭上から、震える声が紡がれる。

「10も、違うんですよ。君から見たらぼくなんておじさんでしかないでしょう。そんなぼくに、抱きしめられたりしたら、嫌でしょう? 君は、同年代の男の子と、年相応の清い恋愛をすべきなんです。ぼくなんかにかまっていないで、青春を謳歌するべきなんです」

 そういいながらも、きつく抱きしめる腕がゆるむことはない。

 本当に、あおいは昔から変わっていない。

 本音を、なかなか素直には言ってくれない。

 でも、そのかわり態度や表情で示してくれる。

 天邪鬼め。

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