第23話
「信じられない、お前、ほんとにあのひまわりなのか。なんで」
「……っ、口調、ほんとに先生、あおいなんだね。すごい」
いつも丁寧な口調なのに、そのギャップがあるあおいのときの口調が、先生の素なんだってわかってなんだかうれしくて、泣き笑いみたいになる。
左手で涙をぬぐうと、その手首を先生に掴まれる。
あのキスの時のような、痛いくらいの力じゃなくて、大切なものを触るかのように、優しく。
私の左手には、あおいにもらったひまわり色のミサンガがしっかりと結ばれている。
「これ、は。ぼくが。いや俺が、ひまわりにあげた」
「はい、ついさっき。ひまわり畑であなたの願い事を込めて結ばれました」
「っ。ひまわり……!」
私の左手をぎゅうと、宝石でも包むように優しく両手で包みこみ、先生の頬にそうっと添えられた。
「な、泣いてます?」
「泣いてなんか、ないですよ」
ぽつり、とそのままの格好で先生が語り始める。
「入学式で、初めて君を見たときから、似てるなとは思っていたんです。でも、そんなことあるわけないと思って。だから他人の空似か、ぼくがいつもひまわりのことを思うから、似た子に面影を重ねてしまってるんだろうって。……自分で引いたよ。ありえないだろ俺、10年も前に会ったきりの、しかもキスしたら泣かれてそれっきりの相手をまだ探しているなんて。きもいだろ。その面影を教え子に見るとか、もうほんとやばいやつじゃんって、思ってたんだ。なのに」
先生は、いまだに私の存在を信じられないようで、軽く動転しているようだ。
口調が、あおいのときの乱暴な感じと先生のときの丁寧なものがごちゃまぜになっていて、聞いていて少し面白い。
今度はすっと、言葉が出た。
「好きです。私、あおいのことが大好き」
「俺も、好きだよ。ずっと、好きだった。10年間ずっと。ひまわりのことが好きで、忘れられなかった」
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