第21話
「い、ったあ」
気が付くと、私はアスファルトに倒れていた。
膝をすりむいてしまったようで、今度は左足がじくじくと痛む。
あれ、アスファルト……?
はっとして、あたりを見渡すとそこは見知らぬ山の中ではなかった。
少し前方に学生鞄が転がっており、その衝撃で開いてしまったらしく、教科書とスマホが散乱している。
「もどっ、た?」
慌ててスマホを拾い上げ、電源ボタンを押すと、今まで何度試してもつかなかった電源がいとも簡単についた。
左上には4Gの文字、充電は47%。
そして、18:14 7月22日(水)の表示。
「今じゃん!!」
興奮して意味の分からないことを叫んでしまう。
ここは私の時代だ。
そして今は、修業式の帰り道だ。
ここはあのとき私が転んでしまった場所。
戻ってこれたんだ!
という喜びがじわじわと私の胸にこみあげる。
だけど、最後に見たあおいの顔が思い出される。
そんなつもりはなかったのに、あのひまわり畑にひとり置き去りにしてしまった。
ミサンガを結んでくれた、得意そうな、嬉しそうな、いつもの傲慢そうな顔。
ひまわりを好きだと言った、照れたような顔。
キスをする直前の、真剣な顔。
目を閉じたときの、あどけない顔。
泣いた私をみたときのぎょっとしたような顔。
左肩に感じた熱。
ふれあった唇の感触。
黄色の炎が燃えるひまわり畑に、14歳のあおいを置き去りにしてしまった。
あおいを。
14歳だったころの、先生を。
ふと、左手首に、さきほどあおいに結んでもらったひまわり色のミサンガが目に入った。
「よかった、これも一緒に戻ってこれて」
す、と優しくミサンガにふれる。
あおいが私のために編んでくれたもの。
大好きなあおいがくれたもの。
「……」
今日は、終業式。
それも、もう遅い時間だ。
生徒は一人残らずもう帰宅したころだろう。
おそらくは、先生たちも大半は。
会えるかどうかなんて、わからない。
もう帰ってしまったかもしれない。
でも、行かなきゃ。
会わなきゃ。
どうしても。
私はそう思った。
アスファルトから立ち上がり、私はゆっくりと校門をくぐった。
あのひまわり畑に置いてきてしまったあおいに、きちんと気持ちを伝えるために。
そして今度こそ。
あの日あきらめてしまった、二度目の告白をするために。
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