第17話
「ほら」
あおいの腹にも、先生と同じ位置にあるふたつのほくろ。
どうしたって、薄々と感じていたあおいと先生が同一人物かもしれないという仮説が、現実味を帯びて目の前に現れる。
「おい、早くしろよ」
「えっ」
はっと気が付くと、目の前にあおいがかがんでいた。
「え?」
「え? じゃなくて。なに惚けてんだよ。早く乗って」
そう言って背中を向けている。
つまり、背負ってやるということか。
「いや、いやいや。あおいつぶれちゃうよ、歩くから。……いたっ」
「言ったそばからこけてんじゃん。俺だって男だよ。お前ひとりくらい軽いもんだから。俺早く帰って風呂入りたいんだよね」
「うう……」
試しに片足で歩こうと試みるも、無残にこけてしまう。
仕方がない、とあきらめて私はあおいの背中に乗って、首に腕を回した。
「落ちるなよ」
宣言通り、軽々と私を背負ってあおいは帰路を歩いていく。
中学三年生で、年下の子どもだと思っていたのに、背中が妙にたくましくて、知らないうちにドキドキと胸が高まってしまう。
あおいと先生が同一人物だとほとんど確信してしまったからだろうか。
けれど、もっと前から、あおいに対してドキドキしていたような気がする。
あの月の夜に、手を重ねられたときとか。
もっと前、初めて出会ったときに手を引かれて連行されたときとか。
あおいの背中にもたれながら、私はなんともいえない気持ちに包まれる。
目の前に、開けたくなかった箱があるみたい。
自分にすら知られたくない、秘密が押し込められた箱。
いくら私がふたを押さえて閉めようとしても意味がなくて、自然と開いてしまう。
私、もしかして、あおいに恋してる……?
認めたら、泣きだしそうになった。
青くてすがすがしい空が、薄く水色ににじんでいく。
先生のことが好き。
先生に恋している。
それは事実。
でも、それはあくまでも私の時代の話で。
先生は私より年上の大人で、今年25歳になる人で。
あおいは、まだ中学三年生の年下の男の子で、生きている時代も、違う。
だけどたぶん、大好きな先生の子どもの頃の姿で。
そんなあおいに恋したのなら、いったい私はどうすればいい。
あおいに泣いているところなんて見られたくなくて、必死に涙をこらえながら、私は自覚してしまった心をどうすることもできずに、あおいのつむじばかりを見つめていた。
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