第18話
強く照りつける太陽が傾き始めた夕刻。
私とあおいはそろってひまわり畑にいた。
いつも通りお昼に三人でそうめんを食べてまったりしているときに、さくらおばあちゃんがふと「ひまわりちゃんが最初にいたところでも見てきたらええ。お花のひまわりも綺麗じゃよお」と言ったからだ。
そう言われて初めて、私もあそこへ行けばなにか帰る手立てが見つかるかもしれないと思った。
もうここにきて一か月近く経っているのに、どうして今まで思いつかなかったのか不思議だ。
家の近くの山道を歩いて散歩したり、川に足だけつけて涼んだり、それを一人だったりあおいとだったり、さくらおばあちゃんも一緒だったりで何度も付近で遊んでいたが、どうしてかひまわり畑に行こうとは思わなかった。
そういうわけで、数週間ぶりに黄色の炎に包まれたようなひまわり畑へとあおいに連れてきてもらったのだ。
なぜか私が一人で行くのをあおいが許さなかったので、大人しくあおいの背中を追いかけた。
川での一件以来、なんとなく気まずくてこの数日間は部屋にこもりきりになっていたので、あおいとふたりになるのはなんだか久しぶりな気がする。
捻ってしまった右足も、家に帰ってすぐさくらおばあちゃんが適切に手当てをしてくれたおかげで、もうほとんど完治したと思う。
ひまわり畑の中心に行くと、一畳ほどひまわりの咲いていない小高い丘のように地面が盛りあがった場所があった。
人がふたりくらいなら立っていられる。
そこからあたりを見回すと、一面に大輪の花が咲いていて圧巻だった。
綺麗、と私がうっとりしていると、隣にいたあおいが身じろぎした。
「なあ」
と声をかけられ、急にあおいがポケットから何かを取り出してこちらへ差し出す。
「これ、ミサンガ?」
黄色と茶色と、緑色の糸が編み込まれている。
ひまわりの色彩だ。
ぷらん、とそれを握るあおいの頬が少しだけ赤に染まっている。
「やるよ」
「え、もしかして、あおいが作ったの?」
「そうだよ。……俺、わかりにくいってよく言われる。趣味なんだ、こういうの。アクセサリー作ったり、手芸みたいなのしたりするの。さくらばあちゃんに教えてもらってさ」
「へえ、意外! すっごく意外!」
「っ、うるせえ、いらないならやらねえ!」
「うそ、ごめんって。ありがとう。あおい、すごいね」
「……すごい?」
「うん、私、手先不器用でね。尊敬する!」
私はこの数日間悶々と抱えていた気持ちも気まずさもすっかり忘れて、細かな装飾が施されたひまわり色のミサンガを眺めた。
「そ、そっか。存分に尊敬したらいいよ。……これ、俺がつけてやるよ。手貸して」
左手首に、するりと巻かれるひまわり色。
くすぐったくて、ふふ、と笑ってしまう。
あおいは器用に私の手首に結んだと思ったら、ぎゅうっと結び目を固くひっぱって固結びにしてしまった。
「きつくない?」
「きつくはないけど……。ちょっとこれじゃあほどけないじゃん」
「ふん、ほどけちゃ意味ないだろ。ミサンガなんだから」
「ん? どういうこと?」
「知らないのか、ミサンガを結ぶときに願い事をして、いつかそれが自然にほどけたとき、その願いが叶うんだ」
「え、うそ、私願い事なんてしてないのに!」
「いいんだよ、お前のかわりに俺が願っといてやったから」
「はあ? 横暴なんだけど年下のくせに!」
「んだよあんま年変わんねえじゃん。大体、どうせ受験成功しますようにとかそういうありふれたもんだろお前の願い事なんて」
「う、いやもちろんそれもだけど!」
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