第16話
それは、昨年の体育会前のこと。
職員会議の結果、私たちのチームの責任者にされてしまった先生は、不服そうにしながらもいつも練習に付き合ってくれていた。
放課後の練習も終わり、さてめいめい解散しようというだらけた雰囲気の中、あるお調子者の生徒が先生にじゃれながら「先生、あんまり足速くなさそうっすよねー、教師対抗リレー大丈夫っすか」と挑発したのだ。
クールそうに見えて、意外と負けず嫌いの先生は、足の速さに自信のある陸上部やサッカー部、バスケ部の生徒ら数人と100メートル走で勝負することになった。
さすがに、現役陸上部生には勝てなかったものの堂々の2位でゴールしたのだから十分すぎる結果だろう。
きっと最下位だよ、と笑いながら見ていたほかの生徒たちも「もやしだと思ってたけど案外運動できるんだ」と見直していたし、その当時から先生のことが大好きだった私は先生の勇姿に感激していた。
颯爽と走る姿を初めて見ることが出来て嬉しいし、汗をかいて息切れしながらも先程挑発してきた生徒に得意げに何か話している姿も素敵だった。
と、先生は額の汗をぬぐいたかったのだろう。
ちょうど手ごろなタオルをもっていなかったようで、グイッと運動着のシャツを引っ張って汗をぬぐった。
私は焦った。
先生の薄くて真っ白いお腹もおへそも丸見えだった。
私は見てはいけないと思いつつも、誘惑に打ち勝つことはできず、まじまじと見つめてしまう。
先生の縦長のおへその真横には、ふたつの小さなほくろが並んでいた。
あの時、先生のそばにはたくさんの生徒がいたけれど、当然誰もそんなこと気にも留めなかった。
きっと、私だけが気が付いたのだ。
先生の重大な秘密を知ったような気がして、誇らしいような落ち着かない気分のまま下校したのを覚えている。
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