第15話


「石につまずいてこけるとか、どんだけどんくさいわけ?」

 盛大な溜め息をつきながら、川に落ちてびしょぬれになったあおいが立ち上がる。

「もしここがこ~んな浅い小川じゃなくて、深い渓谷だったら? 今頃俺は死んでて、お前は殺人犯だよ」

「ご、ごめん。踏んだ石がつるつるしてたから……。大丈夫?」

「大丈夫に見えるのか?」

「……減らず口は変わらないし、濡れただけだよね」

「はあ。まあな。こんなんでこけたぐらいじゃ、怪我のしようもないし。あーあ、服が濡れて気持ち悪い」

「わっ、なにしてんの!」

 あおいは濡れて身体に張りついてしまったシャツを強引にぐいっと引っ張り、ためらいなく脱いでしまった。

 私以外に人の目はないとはいえ、いきなり野外で裸になるとは思わず、私は反射的に目を逸らす。

 しかし、川辺に座り込んだままの私の目の前にあおいは立っているので、あまり意味はない。

「いやお前のせいなんだけど? てか、なに。もしかして俺の裸見てコーフンしてる? 変態!」

「ばか! 違うし、見てないし!」

 わざとらしく身体を隠すようなしぐさをするあおいを、できるだけ視界にいれないように顔をそむけた。

「はいはい。冗談だから。早く帰ろうぜ、飯の前に風呂だな」

「あ、うん……」

「ん? なに座り込んでんだよ、帰るぞ。あ、まさかお前の方が足でも怪我したんじゃないだろうな」

「……」

「え、なに、当たりなわけ?」

「私も嘘だと思いたかった」

 じくじくと痛み出す右足をさすりながら言うと、頭上からまた盛大な溜め息が聞こえてきた。

「はあ~、どんだけ世話かかるんだよ。ありえねえ」

「あ、いや。平気平気。片足で歩いていくし、ちょっと捻っただけだか、ら……」

 言いながら、思わず半裸のままのあおいの方を見てしまって、私は目を丸くした。

 あおいの薄い腹の下の方にちょこんとあるおへその横に、ふたつ並んだほくろがあるのを見つけたからだ。

 私は自分の足が痛いことも何もかも忘れて、ある夏の夕暮れのことを思い出す。


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