第13話


「わあ」

 太陽の光を受けて、水面がきらきらと宝石のように輝いている。

 地上に落ちた天の川みたいにどこまでもどこまでも続いている。

 私はその光を追いかけるように、小川に沿って歩き出した。

「あれ?」

 そう長い間歩かないうちに、見慣れた姿を発見した。

「おう。珍しいな」

 川辺に腰かけていたあおいも、こちらに気が付くと軽く手を振って声をかけてくる。

「うん、なんか散歩してたら川見つけたから、楽しくなって歩いてた。あおい、今日の勉強はさぼり?」

「うるせえ。母親かよお前は」

「えへ、冗談だよ。ここでなにしてたの?」

「別に。ぼーっとしてた」

「ふーん」

 私も隣に座ってみた。

 川辺の周りにはたくさんの木々が太陽の恵みを得ようと枝を伸ばしているおかげで、強い日差しが遮られて過ごしやすい。

 優しい絹糸のような木漏れ日が、子守歌のような小川のせせらぎが、深緑の香りを含むそよ風が、揺りかごのように心地よく私を包んでくれる。

 いつまでもこの場所に座っていたいような、落ち着く空間。

 きっとあおいも同じ気持ちなのだろう。

 私が隣に座っても文句の一つも言わず、サンダルのままの足を川に浸して気持ちよさそうにしている。

 きらきらの星屑をまぶしたように日の光が乱反射する水面をちょん、と手のひらで撫でてみれば、身体が芯から覚めるかのような冷ややかさが、暑い夏を忘れさせてくれるようだ。

「気持ちいいところだね。もっと早くに来てみればよかった」

「ああ、お前引きこもってばっかだもんな」

「おばあちゃんの畑のお手伝いとか、いつもしてるけど!?」

「あー、そういえば確かに」

「もう!」

「はは」

 私がむきになって言うと、あおいはおかしそうに笑った。

 あおいが笑うのなんて珍しい。

 私は驚いて、数秒の間まじまじとあおいの笑顔を見つめてしまったので、慌てて素知らぬ顔をする。

 あの静かな月の夜以来、ほんの少しだけあおいの態度が和らいだような気がする。

 生意気なのは変わらないけど!



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