第10話
満月と星々が飾る夜空を夢中になって堪能していたとき、ふいに背後から声がした。
「ひまわり、眠れないのか」
「ひゃっ!! ……なんだあおいか。もう、びっくりさせないでよ!」
びくりと両肩を震わせ驚く私を見て、あおいはニヤニヤと笑っている。
わざと静かに忍び寄って声をかけたに違いない。
でも、こんな深夜にまさかあおいが起きているなんて思わなかったので本当に心臓が飛び上がるかと思った。
せっかく夜空をうっとりと見上げて心が洗われていたというのに。
「そっちが勝手に驚いたんだろ。しそジュースあるけど、飲む?」
「え。うん。ありがと」
いつになく優しい気遣いをしてくれるあおいを意外に思い見つめていると、そっぽを向きながら「なーんか俺も寝付けなくてさ」と独り言のように言い、氷を入れたおばあちゃん特製しそジュースを持って私の隣に腰かける。
「ほら。こぼすなよ」
「ありがと、子どもじゃないんだから、こぼさないよ」
コップに注がれたしそジュースを一口飲む。
独特の酸っぱさと甘さが絶妙で好みが分かれる味だが、私は好きだ。
「ねえ、初めて名前呼んでくれたね。ひまわりって」
「……だからなに」
「なにってこともないけど、距離が縮まった感じでなんか嬉しい」
「そうかよ、変な女だな」
「お子様に言われたくないんだけど」
「あのさあ。お前、大学ってどこ行きたいの」
「へ、なんで」
急な質問にどきりとする。
えっと、具体的な大学名とかは一応伏せるべきかな。
中学生のあおいに大学に関する知識が豊富だとは思わないけど。
「別に。気になっただけだよ。お前最近いっつも勉強してんじゃん真面目に。そんなに頭いいとこ狙ってんの?」
「いや、家の近くの、普通の文系の学校だよ」
「資格がほしいとか?」
「いやあ、友達がそこに行くって言うから、とりあえず~って感じで決めちゃたんだよね。今ちゃんと勉強して頭良くなってた方が後で選択の幅も広がるかな~。みたいな?」
「そっか」
「へへ、まだ中学生のあおいに言っても、よくわかんないよね」
そういうと、あおいが口を尖らせた。
子ども扱いしたことを怒ったのだろう。
「あおいは? 行きたい高校とか、将来の夢とかってあるの?」
「んー、べつに」
「まだ中学生だもんね。ゆっくり決めていけばいいと思うよ」
「親は、俺を大企業に入れたいんだと」
「また、ざっくりとした希望だね。大企業」
「だろ。しかもそれしか言わねえの。お前は大企業に入れよ、ってさ。それさえできるなら、どんな高校でも構わん、だとよ。だいだいなんだよ大企業って。どの企業だよ。どうせ金のことしか考えてないんだ。俺が何したいとか、何が好きとか、そういうの全く考えてない見せかけの親の言葉だよ。あんなの」
「そう、なんだ」
「お前んとこの親は違う?」
「んー。うちはどちらかというと放任主義? 両親とも仕事であまり家にいないしね」
「ふーん。お互い親には苦労するな」
「あはは。自由にさせてくれるの、私はそんなに嫌じゃないけど。まあ、少しは寂しい気持ち? もなくはないかな」
言いながら、年下のあおいに何言ってんだろ、と我に返る。
なんとなく子どもっぽい部分を晒してしまったのが気恥ずかしくて、話題を変えるように口を開いた。
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