第4話


 机に並べた朝食を、おばあちゃんと二人でいただく。献立は白米、味噌汁、焼き鮭、小松菜の和え物とゆで卵、茄子の漬物、味のり、わらび餅と、どこかの旅館の朝ご飯かと見紛うほどに豪勢だった。普段は菓子パンで済ませるか食べないことも多い私にとってはぜいたくなごちそうだ。

 飲み物は冷えた麦茶とおばあちゃん特製しそジュースがボトルごと机に置いてあって、セルフサービスで注ぐみたいだ。二人分の麦茶をコップに注ぎながら、私は目の前の料理を見て歓声を上げる。

「すごい! 本当に旅館みたい! これ、全部おばあちゃんが?」

「そうさあ。ばあちゃんは料理するのが好きでねえ。お客さんがいると嬉しくて、つい作りすぎちゃうのよ。ひまわりちゃんの口に合うといいんじゃがなあ」

「……いただきます! ん、すっごく美味しいです!」

「そうかい、そりゃあよかった。美味しいと、幸せじゃねえ」

「はい」

 この家にテレビはなくスマホも部屋に置いてきてしまったので、少し手持ち無沙汰ではあったが、その代わりにおばあちゃんの手料理に集中することができた。

 どれもとても美味しいのだけれど、とくにお味噌汁は絶品だ。

「おはよー」

 その時、大あくびをしながら居間にパジャマ姿のあおいが起きてきた。私と目が合うと、嫌そうな顔をする。

「ああ、そういえばお前いたんだっけ。……おはよ」

「えっ」

 てっきり無視されると思っていたので、面食らう。まさか向こうから朝の挨拶をされるとは。やはり根は礼儀正しい子なのかもしれない。

 そんな私たちの様子をおばあちゃんはにこにこして見守っている。

「おはよう、あおい」

 私が微笑んでそう返せば、

「うわ、ちょっと年上だからっていきなり呼び捨てかよ……別にいいけどさ」

 と、小声でブツブツ言いながら台所で自分の白米と味噌汁を大盛りによそって、盆に乗せて運んでくる。

 その途中で何かに気がついたように壁の方へ行き、片手でぺりっと日めくりカレンダーをめくった。

「昨日のままになってたよ、ばあちゃん」

「あらあら、いけない。よく気のつく子だねえ、あおいは。ありがとう」

「別に気にしなくっていいよ」

 あおいはそう言って、私の斜め前の席に座ってもくもくと食べ始めた。まだ眠気が取れないのか、緩慢な動きで箸を口に運んでいる。

 けれど私はといえば。あおいのめくったカレンダーに釘付けになっていた。

 大きく7/23という数字が書いてある。これは別に何もおかしなところはない。昨日の終業式が22日だったのだから。

 でも、その少し上に書いてある4桁の数字を、私は信じられないものを見る目で見つめていた。私もまだ寝ぼけているのだろうか。目をこすり、ぱちぱちと数回瞬きをして、もう一度カレンダーを凝視する。それでも変わりはない。

 『2010』という数字が、7/23の上に確かに堂々と印字されているのだ。普通に考えればその位置には西暦が入るはずである。

 であれば、『2020』と入るのが妥当なのでは? 今年は2020年のはずなのに。しかし、何度見てもそこには『2010』と書いてあるのだ。

 『10』と。

 『2』ではなく『1』、と。

「……ああ、今日は2010年の7月23日かあ」

 私が震える声でそう言えば、あおいが何言ってんだお前、というように怪訝な表情で私を見やる。ああ、どうせ罵倒するつもりならば、ぜひともそんなわけないだろ2020年だよと言ってほしい。私の言葉を否定してほしい。

「なに、当たり前なこと言ってんだよお前。そんなの見りゃわかるだろ」

「だ、だよね……あはは」




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