第3話

このようにして、私の奇妙な夏休みが始まった。

 知らぬ間に来ていたのでここがどこなのかもわからないが、まあ何泊もすることなくすぐ帰れるだろう、と高を括っていたのに、それが大きな間違いで殊の外大変な状況に置かれているのだということに気が付くのは、翌朝になってのことだ。

 翌朝、私は畳に敷いた布団の上で目が覚めた。

 といっても昨晩はあまりよく眠れなかったが。

 何度もとりとめのない夢を見る、浅い眠りを繰り返していたようだ。

 それに、精神的に疲れていたので普段よりも早く、日付をまたぐ前に布団に入ったというのに結局意識を手放せたのは深夜になってのことだった。

 自分の部屋で眠るときはイヤホンで好きな音楽を聞きながらお気に入りのぬいぐるみを枕元に置いて眠るのに、ここには当然どちらもない。

 家の周りがほとんど山なので、聞いたことのない虫や鳥の鳴き声以外はしない。

 その静けさが私を不安にさせた。

 寝不足のまま、のろのろと起き上がり布団をたたむ。

 昨日貸してもらった部屋着に着替えて居間へ向かう。

 部屋着はおばあちゃんの私物というよりは来客者用なのか、若者向けのシンプルながらも着心地が良いスウェットだ。

 ユニセックスなデザインなのでもしかしたらあおいのものかもしれない。

「あら、ひまわりちゃん、おはよう。早いねえ。ゆっくり眠れたかい?」

 台所を通りかかると、さくらおばあちゃんがエプロン姿で朝食を作ってくれていた。私が起きてきたのをみると、ひとなつっこい笑みを浮かべる。

「おはようございます、おばあちゃん。えっと、畳の部屋で寝るのって久しぶりで……」

「そうかい。ほうら、朝ご飯ができているよ。お腹空いたろう? お味噌汁が美味しくできたよお」

「ありがとうございます、私、机に運びますね」

「うん、お願いするよ。あおいはまだ起きないから、二人分だけ持っていこうねえ」

「あおい、朝起きるの遅いんですか?」

「あの子は朝が弱くてねえ。もうしばらくは眠っているんじゃないかねえ」

 昨日の私に向かって悪態をついてくるあおいを思い浮かべる。

 見るからに元気で健康そうな悪ガキって感じだったので、朝に弱いというのは少し意外だ。

 次に、ふと先生のことを思い浮かべた。

 そういえば、先生もあまり朝には強くないみたいで、一時限目の授業は少しだけだるそうにしていたっけ。昨日から妙にあおいと先生が重なって見える。

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