第200話 豪胆伯ピエトロ
1063年9月下旬 ドイツ オーストリア辺境伯領 ウィーン ジャン=ステラ
「ジャン=ステラ様、ピエトロ様からお手紙が届いています」
従者のファビオ・ディ・サルマトリオが、くるっと巻かれた羊皮紙を持ってきた。
「ファビオ、ありがとう」
僕もファビオも声が少し弾んでいる。
お兄ちゃんが無事だという報告が届いて以来、僕の周囲に笑顔が戻ってきた。
今の僕も、きっと笑っている。
前の手紙には、一騎打ちのことが書かれていた。今回の手紙には何が書かれているのかな。
きっと今回もいい知らせに違いない、そんな予感がする。
僕はいそいで封蝋を解き、まるまった羊皮紙を押し開いた。
◇ ◆ ◇
可愛い弟、ジャン=ステラへ
じゃーん、俺な、豪胆伯って二つ名をもらったぞ!
今回の手紙では一騎打ちが終わった後の話を伝えたいと思う。
ハンガリー王国の降伏を、ハインリッヒ4世陛下は了承された。
これでハンガリー戦役はおしまい。
あとはイタリアに無事帰るだけ、そうありたいのだが、仕事が残っている。
その一つが論功行賞。
俺は簡単に終わると思ったんだけどな。
だって、神聖ローマ帝国軍の中で戦ったのは、俺一人だぜ。
陛下が俺を褒めて、どこかの領地なり、宝玉なりを与えておしまい。そう思うじゃないか。
それなのに、アンノ2世の奴が邪魔してきたんだよ、それもいちゃもんレベル。
「なぜ、ハンガリー王国の降伏を受け入れたのです!」
って会議の場で怒るんだぜ。
「ベーラ1世の軍勢を散々に打ち破る必要があったのです。
次のハンガリー国王シャラモン様に敵対する勢力を減らしておくべきでした。
トリノ辺境伯ピエトロ殿は、その方針を台無しにしたのです。
金をかけ、食料を運び、ドイツ各地から大軍を集めた。
手間暇をかけたにもかかわらず、ピエトロ殿の独断専行により、全て無駄になってしまいました。
ピエトロ殿は、その責任をどのように取るつもりですか!」
いや、そんなん知らんよな。敵国ハンガリーに兵500で突撃させといて、こんな言い草は酷いだろ?
ジャン=ステラ、お前もそう思うよな。
いくらアンノが摂政だといっても、ここまで言われては俺も引き下がれない。
陛下の
「ほう。アンノ殿。たった500名で王国一つを降伏させた俺の責任だと?」
とはいえ、このままでは会議が進まないから、俺は謝ったんだぞ、心を込めてな。
「なるほど、なるほど。責任は取らないといけませんな。
アンノ殿の方針が無能だったため、俺が手柄を独占してしまった。
その点については誠に申し訳なく思っている。
このピエトロ、心より謝罪いたそう」
振り向くと、アンノの顔が真っ赤だった。
不思議だろ? 自分自身の無能さを理解していなかったんだぜ。
そんな無能なアンノに俺は、責任の取り方を確認したんだ、一応はな。
「次は責任の取り方だな。
ハンガリー王国の行く末に責任を取れと、アンノ殿は主張しているのか?」
「その通り。ハンガリー王国が乱れると、我ら神聖ローマ帝国の政治が安定しないのです。
だからこそ、シャラモン様を王位につけ、安定した国を作ろうとしたのですぞ!
それを貴殿、ピエトロ殿はぶち壊しにした。どう落とし前をつけてくれるのです」
そんな事を言うんだぜ。アンノって酷いよな。
なにせ、この会議にはシャラモン様も出席されていたんだぞ。
だから、指摘してやったんだ。
「アンノ殿、
シャラモン様を王位につけてもハンガリー王国は安定しない。
つまり、シャラモン様に王の資質はないと。そう主張されるのですな」
「いや、そんな事はいっていない。私はピエトロ殿の責任を……」
「ええい、ごちゃごちゃうるさいわっ! シャラモン様への無礼、そして無能な侵攻計画。
さらに、その無能さを俺の責任にしようとする恥知らずめ。
俺は許さぬ。神も許さぬ。アンノよ、俺は貴様に一騎打ちを申し込む。
ハンガリー王ベーラ様を討ち果たした俺の腕前、お前に見せてやるわっ!」
普通なら、貴族が聖職者に一騎打ちを申し込むなんてありえないだろう?
だがな、会議場は超盛り上がったぞ。
会議に参加していた全諸侯が「うぉーー」って雄たけびを上げたのには俺も笑ってしまった。
アンノって嫌われ者だったんだな。おれも嫌いだったけどさ。
結局、一騎打ちは行われず、アンノは皇帝陛下に泣きつきやがった。
「ピエトロよ。アンノとて帝国の事を思っての事なのだ。一騎打ちはやりすぎだ」
そんなお小言をハインリッヒ陛下から頂戴してしまった。
悔しいが、陛下はアンノの味方なのだな。
とはいえ、陛下にそう言われては、俺も矛を納めざるを得なかったさ。残念無念。
そしてな、ジャン=ステラ。すまん。先に謝っておく。
俺が言い過ぎたために褒賞がその分、差っ引かれてしまった。
軍功に対して与えられたのは、男爵領が一つ。それもアルプス北側の寒い場所。
たったそれだけ。
ドナウ川支流のシュヴァーツという所で、ここをつかってハンガリー王国との交易をするようにとのお達しを同時に頂戴した。
俺に商売は無理だから、この領地はジャン=ステラに任せたいと思っている。
俺への褒賞がない事は気にしなくていいぞ。
ハンガリー国王ベーラ陛下との一騎打ちに勝ったこと、そしてアンノへの
アデライデお母様とジャン=ステラに挟まれ、己に自信が持てなかった俺にとっては、最高の贈物なんだぞ。
これで俺も自分に自信が持てるようになった。
あ、あとな。ハンガリー王国から剣を
その品はなんと、フン族の大王アッティラの剣!
さらにだな、アッティラ大王の前の持ち主は、ギリシアの軍神マルスなのだとか。
「全世界の支配者になる運命を持つ者が、この剣の真の所有者」
シャラモン様のご母堂アナスタシヤ様は、そのように
俺は世界なんて要らんからと、受け取りを辞退したのだが、是非にと言われてな。
仕方がないから、代わりに聖剣セイデンキをハンガリー王国に譲ることになった。
事後で申し訳ないが、了承してほしい。
だから、アッティラの剣はジャン=ステラに受け取ってもらいたい。
よかったら、世界を支配してみておくれ。お前なら出来る気がするしな。
◇ ◆ ◇
手紙を読み終わった僕の口から大きなため息が出てきた。頭がいたい。
そんな僕を、従者のファビオが不安そうに見つめてくる。
「ジャン=ステラ様、どうされましたか? もしかして悪い知らせでも書かれていたのでしょうか?」
「悪い知らせでは無いんだけどねぇ。なんかお兄ちゃん、性格がかわっちゃったみたい」
豪胆伯という二つ名に引っ張られたのか、一騎打ちで自信をつけたのかは分からない。
以前のピエトロお兄ちゃんなら、摂政であるアンノに反論なんて到底出来なかっただろう。
それが
今まで細くて繊細な感じなお兄ちゃんだったのに、大胆かつ豪快に反転しちゃったんじゃない?
アデライデお母様の性格に似てきたのかな。なんだかんだいっても親子だもんね。
だけど、僕を悩ませるのはお兄ちゃんの事ではなく、アッティラ大王の剣の方。
全世界の支配者になれる剣、ってそんな無駄なものを押し付けられても困っちゃう。
ただでさえ預言者って事で、いろいろな面倒ごとに巻き込まれているっていうのに。
ぽいって捨てちゃいたいけど、そういうわけにもいかないよねぇ。
はぁ、と再びため息が出た。
お兄ちゃんの期待に
世界を支配するなんて面倒な事、やってられないし。
それよりも僕はピザがたべたいの!
ピザが食べられる幸せに比べたら、世界の支配者なんて何の魅力も感じられない。
どうしてそんな簡単な事をお兄ちゃんは分かってくれないのかなぁ。
あ、そっか!
お兄ちゃん、ピザを食べたことないんだ。
トマトソース
そして、ポテトとマヨネーズの相性の良さといったら、もう天国行き確実だよね。
お兄ちゃんのためにも早く新大陸からトマトとジャガイモを取り寄せなくっちゃ!
ーーーー
あとがき
ーーーー
史実において豪胆伯の2つ名は、オーストリア辺境伯エルンストが持っていました。
このエルンストですがハンガリー戦役の活躍によって、豪胆伯の2つ名、そしてアッティラ大王の剣を貰えるはずだったのです。
それが、アンノ2世の横槍によりピエトロお兄ちゃんが先陣を切り、ハンガリー王国を降伏させちゃったから、あら大変。
ピエトロお兄ちゃんに全ての手柄を奪われてしまったのです。
あな、かなしや、エルンスト。
◆祝200話◆
みなさまが読んでくださっているおかげで 「前世の知識は予言なの?」 が200話に到達いたしました。
ご愛読いただき誠にありがとうございます。
そして、再度のおねだりをお聞き届けいただけましたら幸いです。
もし未だに評価されていない方がおりましたら、この機会にぜひお願いいたします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
「え~っ、どうしよっかな~ チラッチラッ」と迷われている方がいましたら、ぜひ次の文をお読みください☆彡
◇ ◆ ◇
どうすればなろうで評価してもらえるか国民別に考えた
アメリカ人 評価すればあなたは英雄です
イギリス人 評価すればあなたは紳士です
ドイツ人 評価するのがこのお話の規則となっています
イタリア人 評価すると女性にもてますよ
フランス人 評価しないでください
日本人 みんな評価してますよ
ところで、あなたは
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