第43話 陣幕と母衣2 前世の思い出
不幸な事故で転生するすこし前、ジャン=ステラは、藤堂あかりという名前の若い女性であった。
その前世での勤務先は農業高校。
校外実習でお世話になった農場や牧場には何度も足を運んだものだ。
そんな中で一番印象に残っているのが、牧場で行われた大河ドラマの撮影だ。
撮影現場だった牧場近くの丘。
その丘の上から鎧武者を乗せた馬が駆け降りてくるのは、胸がしびれるほどカッコよかった。
女生徒と一緒に、きゃーきゃー言いながら見学したっけ。
そして馬の扱いを少しは知っているだろうという名目で、学生と一緒に参加したエキストラのバイト。
人馬入り乱れる合戦場を泥まみれになりながら、監督の指示であっちへこっちへ走り回ったものだ。
そのおかげで、髪の毛の中まで泥が入ってしまい大変だった。
今となっては懐かしい思い出だ。
さて、牧場に置いてあったシルクが関係するのはここからである。
まずは大河ドラマの主役が戦場で指揮を執っている場面を想像してほしい。
たとえば川中島の戦いにおける武田信玄と上杉謙信の一騎打ち。
その刀を軍配で辛うじて受け止めた信玄。
たとえば桶狭間の戦いの今川義元。
織田信長が奇襲してくるの知らず、
武田信玄や今川義元が座っている場所は、陣幕と呼ばれる白い布で囲われている。
この陣幕が実は絹、つまりシルクの布なのだ。
この話をドラマ撮影の監督さんから聞いた時は私もとっても驚いた。
だって、シルクって高いでしょ?
わざわざ高いシルクを使わなくてもいいのに、って。
「レイヨンとかの化学繊維だったらもっと安いと思うのですが、どうして高いシルクを使うんですか?」
「戦国時代の当時から陣幕は絹って決まっているんだよ。値段の高低じゃあないんだ」
若い女性が話しかけてきた事に気を良くしたのか、監督さんは絹にこだわる理由を自慢気に教えてくれた。
「見かけに寄らず絹って強いんだぞ。ちょっと試してみようか」
そういった監督は、足元の石を陣幕めがけて投げつけた。
投げつけられた石は、ふわっと陣幕に包み込まれて勢いをなくし、陣幕の下にころがり落ちる。
「な、破れないだろ」
ちょっと得意げな表情で監督は、説明を続けてくれる。
「投石を防ぐだけなら絹でなくてもいいんだが、矢を止めるには絹が一番だと昔から言われていてな」
繊維の目が細かいシルクは、他の布よりも矢じりの力を上手に分散させるため、その分だけ矢が貫通しにくいのだと教えてくれた。
「シルクが一番なのは、陣幕だけじゃないぞ。あっちの鎧武者を見てみな」
監督が示した鎧武者は、大きく膨らませた赤い風船を背負っている。
「風船みたいな大きなリュックを背負っていますね。
サイズが大きいから、なんだか小学一年生の女の子が背負う赤いランドセルみたい」
「女の子のランドセルって……
なぁ、嬢ちゃん。あれはな、武士の名誉が詰まった防具なんだぞ」
織田信長の配下であった前田利家は、赤い
「勇壮で鳴らした武者だけが纏うことを許されたんだぞ」
「つまり、その名誉の防具は矢を防いでくれるんですね」
「馬を走らせると膨らんで、背後から射かけられる矢を防いでくれるんだ。
おもしれーだろ」
「そして、弓を防ぐという事は、
「ああ、陣幕も
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