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あれから、仕立て物の仕事がパッタリ来なくなった。
それだけじゃない。私が外に出ると店先にいた人が視線を合わせないばかりか、慌てた様に中へと入って行く。
「どうしちゃったんだろうねぇ。まぁ、しばらくは蓄えも有るし、ゆっくり出来て良いけどね!」
カリンはそう言うが、蓄えなんかそんなに有るわけない。
全てこの前の出来事のせい。
分かっては居るけど、私は、どうしたら良いのだろう?
「ほら、また変なこと考えてるだろう? 駄目だからね。ここから出ていっちゃ。ねぇ、エイジ?」
「そうだよミサ。町の奴らなんか直ぐに忘れるさ」
二人はそう言って笑ったけど、私は嫌な予感がしてならなかった。
何かが起こる。必ず近い内に、私の人生を左右する出来事が。
それは思ってもない程素早く、音もなく近寄ってきた。
「何だか外が騒がしいねぇ」
カリンが言うより先に、私は気配を感じていた。
人々の悪意に満ちた感情、畏れ、理解し難いモノを排除しようと集団になって向かってくる。
「駄目よ、カリン! 外に出ちゃダメ!」
様子を見ようとドアに近付くカリンを止めて、私は一歩踏み出した。
ドアに手を掛け振り向くと、最後にこの家で楽しかった思い出をそっと胸にしまい。
二人に、ありったけの笑顔で言った。
「ありがとう、カリン、エイジ。元気で……今まで幸せだったよ。あなた達のおかげ。どうか、二人に幸運がきますように……」
「なに言ってるの? ミサ、嘘だろ? 悪い冗談言ってるんじゃないよ!」
「ミサ、行くな! いま出てったら、どんな目に合うか。 俺が、俺が守るから……」
「大丈夫。自分の身は自分で守れる。エイジ、私が出ていった後は、カリンを守ってね。私は絶対忘れない。生きのびてみせる。必ずまた、会えるから」
二人の顔も滲む涙で見えなくなる。
私は最後に笑顔を作らなくてはならないのに、何故こうも上手くいかないんだろ。
「約束よ。私が出て行っても絶対後を追わないで。外を見ては駄目だからね」
「ミサ……分かったよ。だから、絶対に生き延びて会いに来るんだよ。絶対に!」
カリンの言葉に救われた。最後の笑顔が振り絞って出せたから。
外の喧騒のただ中へ私は出て行く。死ぬためじゃない、生き延びるために――
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