「あぁ、ミサ! 気が付いたんだね。良かった……」


 目を開けた時、カリンの心配そうな顔を見て現実に帰った。

 夢ではなかったのだと。

 アレは確かにマサキさんで。母は死んで。

 いや、殺されたのだ。

 絶望で叫び出す代わりに私がしたのは、両手で顔を覆うことだけだった。


「ミサ……なんて言ったら分からないけど、私達はあんたの味方だから」


 カリンの言葉に背中に冷たいものが這上がってくる。


「母は、何処に……?」


 埋葬したのかと口に出しては言えなかった。それに、私はどうしてしまったのだろう?

 額に傷があった男の言葉。


『能力者――』


 あの、目の前で止まったナイフ。あれを私が?


「おばさんはマサキ……の側に埋葬したよ。それが一番良いと思ったんだ」


 墓といっても中は空の墓標。遺体が発見されなかったから、家の裏にひっそりと目印をつけておいた石があるだけ。

 とても体がだるくて、起き上がる時は思わずうめいてしまったけど、行かなければ。


「ちょ、ちょっとまだ起きなくても。まる2日も死んだ様に寝てたんだから」


 2日も寝ていたことに驚きもしたが、それなら尚更会いに行きたい。まだ、お別れも言ってないのだから。


「カリン、お願い。連れて行って欲しいの」



 本来なら墓の中は空で、墓標だけだった筈なのに。

 柔らかな陽射しの中、2つの石が置かれ、カリンが何処からか探して来たのだろう、花が添えられていた。

 私は墓に近付きながら、体から力が抜けたように崩れ落ちた。


「ミサ、おばさんは直ぐには死ななかったんだよ。最期にミサに悪かった、ごめんよって……」


 私は何も言えず、泣くことも出来なかった。

 ただ、うつ向き何時までもその場所から動く気になれなかった。




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