――運命の日の朝――


 目覚めは最悪で。泣きながら起きた私は、妙な胸騒ぎがしてならなかった。


「ミサ、大丈夫かい? 随分うなされていた様だけど」


 カリンが心配そうに顔を覗き込んだ。大丈夫だと笑おうとしてみたけれど、巧くいかなかったみたい。余計に不安そうに見ている。


「大丈夫、じゃないみたい。何故だか判らないけど、不安で仕方ないの。何もなければ良いのだけれど……」


「ミサは昔から、勘が良いからね。ほら、子供の頃に隣のじ―ちゃんが……」


 そこまで言ってカリンは言い淀んだ。

 そう、人が亡くなる前になると不思議に私には分かってしまう。

 特に身近に居る人なんかは。


「カリン、今日の視察に来る政府の人は誰なの?」


「何でも、最近幹部になった若い人らしいよ。大方戦争で、手柄を挙げたんじゃないかい?」


 その時、脳裏に馬車に近付く母の姿がフラッシュバックの様に浮かんでは消えた――


「カリン、いま何時?! あぁ、大変!」


 私の様子にびっくりした顔で、慌てて時計を見て言った。


「いま九時になったところ。一体どうしたんだいミサ?」


 時間など問題ではないのだ。今は早く母を捜さなければ。


「カリン、エイジは? 今すぐ母の居場所が知りたいの! 今なら未だ間に合うかもしれないから」

 カリンは何も言わず、エイジを見付けて来ると家を出た。

 私のただ事ではない剣幕に押された様に。

 それがとても有り難く、私も急いで支度すると家を飛び出し母の姿を捜し求めた。


「あぁ、ミサ。おばさんは家に居ないよ! 一体何処に行ったんだろうね?」


「お願い! 捜して……でないと大変なことに」


 殆んど半狂乱になって叫ぶ私にカリン達は絶対見付けるからと、言い残し走って行く。



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