「ミサ、大変だよ! 今日、何があると思う?」


 私は知っていたが、カリンの顔を見ると知らない振りをした。

 だって、新しいニュースが入ると楽しそうに話すカリンに水を差す様な事はしたくない。


「なあに? 何か良いことでも起こるの? カリンに彼が出来たとか?!」


「馬鹿だねえ、そんな訳ないだろ! いつもミサが一緒に居るのに」


「あ、俺知ってるよ! 政府の司令官様達が視察に来るんだよね」


「何もあんたに聞いてなんかいないよ! エイジ、サッさと配達に行って来な!」


 カリンに追い立てられる様にエイジは仕立て物を配達に行った。


「カリン、あんな言い方したら、エイジが可哀想よ」


「良いんだよ。エイジは子供の時分から、一言多いんだよ。あれ位言って丁度良いのさ。それより政府のお偉いさん達が、この町に来るんだよ! のんびり仕事してる場合じゃないと思うけどね!」


 そうはいっても仕立て物の仕事は溜っているし、私には興味がない。というよりも、見たくもない。

 政府の人間が来たからといって、私達の暮らしには、何の関わりも無いし、戦争を思い出すだけ。


 私は間違っていた。関わりないと思っていた。

 そんな事が赦されるほど、この国。いや、世界は平和ではないということに。

 信じたかったのかもしれない。こんな時代でも『希望』があるのだと。



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