思い付く処は全て捜した。だけど母は何処にも居ず、時間ばかりが無情にも流れていく。


「一体何処へ行っちまったんだろう。町中捜しても居ないなんて……」


「カリン、エイジ、ありがとう。こうなったら待ち伏せするしか無いみたい」


 二人は凄く心配そうに私を見つめる。

 無理もない、誰が見ても私の態度は普通では無いし、気が触れたとしか見えないだろうから。

 その時、高らかに音楽が流れたと思うと、空に向けて銃を撃った様な音がした。


 始まったのだ。パレードが。慌てて騒ぎの真っ只中へ走り寄る。

 そこは既に黒山の人だかりで、中心に居るで有ろう政府の馬車すら見る事が出来ない。


「ミサ! 居たよ、あそこ!」


 母が、居た。

 目は落ち窪み人が変わったその表情は憎しみが溢れだしそう。


「お母さん、お願い! やめてちょうだい!」


 人を掻き別けながら進んで行く私。スローモーションの様に、目の前で母がゆっくりと馬車に向かって行く。


「何だ? お前は」


 馬車の脇に立って居る軍服を来た若い将校が、手を振って下がれとジェスチャーをするが、母は近付いて叫んだ。


「何が偉い軍人さんかね! ふざけるんじゃないよ!  戦争なんかのせいでわたしの息子が……お前達が殺したんだ!」


 言いながら投げたのは、家から持ち出した果物ナイフだった!

――私はその時の事を余り覚えて居ない。

 気が付いたら、母は血まみれで倒れていて、私の目の前には、ナイフが宙に浮いたまま停まっていた。


「キラ様、如何致しますか?  この者、能力者の様ですが始末しておいた方が……」


 そう言った男は背が高く、細身で額に斜めに傷がある。まだ、若くミサ達と変わらぬ様に見えた。


――そして。馬車の中から声がした。

 それも聴き覚えのある声が。まさか、 いいえ! 違うっ!


「放っておけ、所詮一般市民だ。何が出来るというのだ?」


「でも、組織に入られでもしたら」


「私のいう事が聞けないのか? 分かっているんだろうな?」


 違うっ! 絶対あの人では無い! もし、そうだったら何故こんな事出来るのよ――!


「……ミサ、嘘だろ? 信じられ無いよ!」


 カリンが呟いた。意識が遠のく中、確かに私はあの人だと気が付いてしまった。


 マサキなのだと。





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