母の家を出てから、あてどもなく私は歩いていた。

 すでに私の家には、誰か知らない人が住み着き、居場所すら見付けられずにさまよっていた。


「ミサ!  どうした?」


 気力も空腹のためになく、揺さぶられて私は、ボンヤリと声の主を見上げる。


「エイジ。私、わたし……」


 そこで意識を無くした私は、気がついたらエイジの家にいた。

 エイジは、私の幼馴染みのカリンの弟だ。

 小さい時から四人でいつも遊んでいた。マサキも一緒に。


「ミサ、水臭いよ! 行くとこ無いなら何故、家に来ないの?」


 目の前に居るカリンは、本気で怒っている。

 私は、カリンに抱きつき「ありがとう」と言った。

 それしか、言うべき言葉が見付からなかったから。


「もう、良いよ! あんたが無事でここに来れたんだから」


 口は悪いけど照れ屋なカリンは私をジッと見て言ってくれた。

 ここで、あたい達と暮らそうよ。


「ほらさ、あたいは手に職ないしエイジはアレだから、ろくな仕事につけないだろ? ミサが居てくれたら、マシな暮らしが出来るってもんさ!」


 カリン達は私と同じ、父を戦争で母を病気で亡くした。

 それ以来、姉弟で肩を寄せあって暮らしてきたのだ。

 子供の頃に小児麻痺に掛り、片足を引きずるエイジは、戦争には免れていたが、生きていくだけが精一杯の生活だ。

 カリンは、近所の工場で安い賃金で働かされている。

 私は、母に仕込まれた裁縫で少しは仕事も有るから。


「カリン、本当に良いの? 私がここに居て?」


「あん! もう、じれったいね! あたいが良いって言ってんだ。あんたのお母さんにも世話になったし、せいぜい、きばって稼いでくれよ!」


 私は、嬉しかった。自分が必要とされて、居場所が有るという事が。

 感謝の代わりに抱きしめたら、カリンはまた、怒るかしら?


「うん! ありがとうカリン、エイジ、私頑張って一杯稼いで来るから! 損はさせないわよ」


 カリンの流儀にのっとって、明るく宣言する。

 母が心配で心残りだけど、毎日様子を見に行こうと決めていた。




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