3
母の家を出てから、あてどもなく私は歩いていた。
すでに私の家には、誰か知らない人が住み着き、居場所すら見付けられずにさまよっていた。
「ミサ! どうした?」
気力も空腹のためになく、揺さぶられて私は、ボンヤリと声の主を見上げる。
「エイジ。私、わたし……」
そこで意識を無くした私は、気がついたらエイジの家にいた。
エイジは、私の幼馴染みのカリンの弟だ。
小さい時から四人でいつも遊んでいた。マサキも一緒に。
「ミサ、水臭いよ! 行くとこ無いなら何故、家に来ないの?」
目の前に居るカリンは、本気で怒っている。
私は、カリンに抱きつき「ありがとう」と言った。
それしか、言うべき言葉が見付からなかったから。
「もう、良いよ! あんたが無事でここに来れたんだから」
口は悪いけど照れ屋なカリンは私をジッと見て言ってくれた。
ここで、あたい達と暮らそうよ。
「ほらさ、あたいは手に職ないしエイジはアレだから、ろくな仕事につけないだろ? ミサが居てくれたら、マシな暮らしが出来るってもんさ!」
カリン達は私と同じ、父を戦争で母を病気で亡くした。
それ以来、姉弟で肩を寄せあって暮らしてきたのだ。
子供の頃に小児麻痺に掛り、片足を引きずるエイジは、戦争には免れていたが、生きていくだけが精一杯の生活だ。
カリンは、近所の工場で安い賃金で働かされている。
私は、母に仕込まれた裁縫で少しは仕事も有るから。
「カリン、本当に良いの? 私がここに居て?」
「あん! もう、じれったいね! あたいが良いって言ってんだ。あんたのお母さんにも世話になったし、せいぜい、きばって稼いでくれよ!」
私は、嬉しかった。自分が必要とされて、居場所が有るという事が。
感謝の代わりに抱きしめたら、カリンはまた、怒るかしら?
「うん! ありがとうカリン、エイジ、私頑張って一杯稼いで来るから! 損はさせないわよ」
カリンの流儀にのっとって、明るく宣言する。
母が心配で心残りだけど、毎日様子を見に行こうと決めていた。
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