「お母さん。ちゃんとご飯食べなきゃ駄目じゃない」

 マサキの戦死の知らせを聞いてから、母は食べ物を口にしなくなった。

 既に四日も何も食べてくれない母に、焦りを感じた私は、せめてスープだけでも飲んで貰おうと、スプーンを口に運んだ。


「わたしは、何も食べたくないね。ミサ! あんたがそんな薄情な子だとは思わなかったよ! マサキが死んだというのに。平気な顔で居られるなんて!」


 そう言って払い除けた手に、スープがかかった。


「熱いっ! あんたは火傷させる気で、わたしに……」


「違う! 違うわ。お母……」


「あんたなんかに、お母さんなんて呼んで貰いたくないよ! 出ていっておくれ! さあ、出ていけ――!」


 あんなに優しかった母が、すっかり変わってしまった。

 彼の死を受け止める事が出来ない母。

 誰を憎んだら良いかも分からなくて、私に当たるしか、心の安定を保てないのだろう。

 でも、私には母との大切な時間があった。

 憎まれても、嫌われても、母が心配でならない。


「おか……おばさん。私は自分の家に帰るから。お願いだから、食べてちょうだいね」


 食べ物は母の所へ全部置いて、私は母の家を出た。

 ドアが閉まった途端、中から母の叫び声が聴こえてきた。

 涙があとから、あとから、あふれ出してきて止まらない。母は、こう言った。


「ミサ――! ごめんよ……! ごめん……よ」






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